第50話 白峰のえるの配信模様

「——皆ー、こんのえー。白峰のえるの配信のじっかんっだよーっ」


 優陽が部屋から帰ったあと。

 優陽が入ることが出来なかった部屋……配信用の部屋にて、乃愛はVtuberとしての活動を始めていた。


 いつもより少しだけ弾んだ声音の自己紹介に合わせて、表示された背中に小さな羽がある天使のようなアバターが揺れる。


『——こんのえー!』

『——のえちゃんの配信きちゃぁぁぁあああ』

『——なんか今日いつもよりテンション高め?』

『——そうか? いつも通りじゃね?』

『——いや、確かにいつもは平坦な道って感じなのに、多少砂利が出てきたくらいの凹凸はあったゾ』

『——言いたいことは分かるがクソ汚い例えで草』

『——なにかあったの?』


 いつも淡々とし過ぎているので、その分かりやすい声音の変化に気が付いたリスナーもいるようだ。


「ん。あった。実は今日、のえの初めての友達、Yちゃんと遊んだ」


 その報告にコメント欄が沸き立つ。


『——おお! 例の!』

『——色々と奇跡的な出会いをしたっていう子だっけ?』

『——すまん。俺それ知らないんやが、誰か簡潔に説明してくれんか』

『——のえちゃんがオフでゲームしてる最中実力が拮抗してるプレイヤーと出会う→何試合もして楽しかったのえちゃん勇気を出してリスコに誘う→Yちゃん引き受け、仲良くなる→まさかの同い年だということが分かり突発的なオフ会に発展→オフ会当日のえちゃん緊張してこける→助けられた相手がたまたまそのYちゃんだった→遊んでからオフ会解散後帰宅してお互いが住んでる所がほぼ目の前のマンション同士だったことが発覚→今ここ』

『——奇跡過ぎて草』


 盛り上がるコメント欄は置いておいて、突発的に出てきたYちゃんなる人物について述べるなら、優陽のことである。


 さすがに異性と知り合った、などと言ってしまえば炎上は免れないと思った乃愛が優陽のことを説明する際、同性のYちゃんだということにしていたのだった。


「最初はYちゃんの部屋だったんだけど、のえが部屋の片付けしてないって言ったら片付けに来てくれて」


 その発言にコメント欄が盛り上がる。


『——おお!?』

『——面倒見が良過ぎる系女子Yちゃん』

『——服脱いだわ』

『——着とけ。神聖な百合の場を汚すな愚か者』


 ちらり、とコメント欄を見た乃愛は話を続けていく。


「Yちゃん片付けもやってくれて、しかも晩ごはんまで作ってくれた」


 ちょっと自慢気に話すと、コメント欄がまた動きをみせる。


『——面倒見良くて家事万能でオタク趣味も好きとかとかYちゃん最強過ぎん?』

『——しかも顔もいいらしい』

『——Yちゃーん! 俺だー! 結婚してくれー!』

『——座ってろ。のえちゃんを差し置いてプロポーズするな。身の程を弁えろ馬鹿者が』

『——献立は?』


 コメント欄を見つつ、乃愛は更に話を続けていく。

 

「肉じゃが。もの凄く美味しかった。ご飯粒が口元に付いてるの取ってもらったりした」


 そう言うと、『——てえてえ』や『——キマシタワー』などのコメントが多く流れ始めた。


『——ア゛ッ!』

『——てえてえが過ぎる』

『——俺氏、あまりの尊さに絶命するも、話の続きを聞く為に魂が現世に留まる。危ないところだった』

『——結局死にはしてるやんけ』

『——口角上がり過ぎて某カードゲームアニメの友人キャラみたいな顎になったわ』


 そこで一旦話を区切り、乃愛はお茶で喉を潤してから、再び口を開く。

 ちなみにそのタイミングで『——お茶助かる』というコメントが多く流れ、スパチャも送られてくる。


「ん。スパチャありがとう。……それで、Yちゃんにお金を渡そうとしたら、少し怒られた」


 その発言には、コメント欄もさすがにざわついた。


『——そこでなんでお金が!?』

「ん。労働には対価が必要だから。でも、自分がやりたくてやっただけで、友達からお金は受け取れないって断られた」

『——ああー……それは確かにのえちゃんがよくなかったかも』

『——さっきからYちゃんの好感度爆上がりなんやが』

『——分かる。顔良し、性格良し、家事万能の女子とか無敵過ぎ』

『——俺の中のイマジナリーガールフレンドもそんな感じやぞ』

『——↑ニキは空気読んでどうぞ』


 流れていくコメント欄を見ながら、乃愛はまた言葉を紡いでいく。


「それなら、お手伝いさんとして雇うって言ったんだけど……」

『——!?」

『——真剣な話の最中に申し訳ないけど、のえちゃんの発言が予想外過ぎて草』

『——さすが俺たちののえるん。ぱねえ』

『——それで、Yちゃんはなんと?』

「ん。お金を受け取ったり、雇用関係になったら純粋な友達とは言えない。私はのえと対等な友達でいたいから、その提案は絶対に呑めないって」


 思い返して、少ししゅんとしてしまう。

 あのいつも自信はなさそうだけど、柔和な笑みをしている優陽にあんなに真剣な顔をさせてしまったことを乃愛はかなり反省していた。


『——ここに来てYちゃんの株が更に爆上がり案件』

『——断り方がイケメンのそれ』

『——本当にいい友人を持ててよかったね、のえるん』

「ん。のえは幸せ者。だから落ち込みはしたけど、機嫌がいい。……雑談はここまでにしておいて、そろそろ今日のゲームを始めていくね」


 そう言い、乃愛はゲームの準備を始める。

 そんな乃愛だが、実は優陽に怒られたこと以外に、引っかかっていることがあった。


(……優陽くんと付き合ってるって勘違いされた時、優陽くんは俺なんかって言ってて、突然過ぎて言葉を返せなかったけど)


 ——勘違いされても、嫌な気はしなかったのはどうしてなのか。


 その問いに対する答えは、まだ、乃愛の中で出すことは出来なかった。






***


あとがきです。


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