第48話 部屋の片付けと即死系トラップ(回避不可)
「……とんだ恥をかいた」
下着をしまい終えて戻ってきた乃愛が、開口一番、そう口にする。
頬にはまだ朱が差していて、どれだけ恥ずかしかったのかを物語っていた。
「……えっと、本当にごめん。中で大きな物音が聞こえたから、心配で反射的に飛び込んじゃって」
「……ん。私も八つ当たりだって分かってる。ごめん」
お互いに頭を下げ合う。
「で、でもなんであんなに、し……下着を抱えてたの?」
「……片付けるのが面倒で部屋干ししたままだった。下着はさすがにないと困るし、こまめに自分で洗濯してるけど、畳み方とか分からないから」
「な、なるほど。……それなら服も洗濯すればいいのに」
俺は改めて部屋を見回し、脱ぎ散らかされた服類に目をやった。
所々に外行き用の服のようなものも混ざっているけれど、基本的には部屋着っぽいものが多い。
どうやら、外に出ないと言っても毎日ちゃんと部屋着を変えているみたいだ。
「服は色が移ったりとか、手洗いじゃないとダメだとか、よく分からないから」
「あー確かに服ってそういうの多いからね」
まあ、俺はそんな洗濯に困るようなお洒落着なんてほとんど持ってないから、困ることはなかったけど。
乃愛はお洒落だし、服をたくさん持ってるんだろうし、服が傷んだりしないように分けたりするのは大変そうだしね。
「でも、今度からはちゃんと下着を片付けないといけない」
「え? どうして?」
「これからは優陽くんが部屋に来る機会が増えるから。見られたら困る。恥ずかしい」
俺はそこで、目撃してしまった下着類の記憶が蘇り、顔を赤くし、「そ、そうだね。俺も困る」と呟く。
あんなの何度もあったら俺の心臓が止まりかねないから、是非そうしてほしい。
……ん? あれ?
「俺、これから乃愛の部屋に何度も来ることになるの?」
「ん。遊びに来てほしい」
「え、け、けど、それは……」
女子の部屋に何度も入るってことだよね?
いや、最近は確かに女子と2人きりで部屋にいる機会が増えて、慣れてきたとは思うけど、それは自分の部屋だからだ。
女子の部屋で2人きりなんて普通に緊張する。永遠にそわそわする。絶対に。
「……ダメ?」
「う、だ、ダメってことはないけど……」
「……」
「はあ、分かったよ」
乃愛がなにも言わずにずっとこっちに青い瞳を向けてくるので、俺は早々に白旗を揚げた。
美少女との睨めっこなんて勝てる気がしない。
「けど、それなら少しは自分で掃除出来るようにならないとね」
「………………善処はする」
あ、これはやらないな。
たっぷりと間を取ってから、ふいっと俺から目を逸らす乃愛を見て、俺は苦笑を漏らす。
「まあ、とりあえず掃除始めてくね。と言っても、ゴミ類はあまり放置されてないし、散らばったものの片付けくらいになると思うけど」
「本当に助かる。ありがとう」
「まずは服類から片付けようか。洗濯出来そうなものはまとめて洗濯機の中に入れていこう」
「ん」
俺と乃愛で手分けして、散らばった服を集めていく。
その際、俺が服の表記を確認し、まとめて洗えそうなものを洗濯機に入れる。
ひとまず、少しでも片付けばいいので、分けて洗わないといけないものは一旦放置する方針だ。
「埃とかは溜まってない……相当掃除が行き届いてるね」
「ん。うちの自慢のお手伝いさん」
テレビの裏や、窓の枠など埃が溜まってそうなところも確認してみたけど、そっちは大丈夫そうだった。うん、拭き掃除の必要はなさそうだね。
「じゃあ次は……乃愛はお菓子のゴミとかをまとめておいてくれる?」
「ん、分かった」
乃愛に指示を出してから、俺は本棚に本を戻していく。
ついでにゲームの箱も棚に収めようと手を伸ばし、
(あ、もしかして)
なんとなくこうなんじゃないか、という予想を立てながら俺はパッケージを開く。
「あ、やっぱり」
そこには、予想した通りパッケージとは違うゲームが収められていた。
そんな俺を見て、乃愛が少し目を丸くする。
「ん。凄い。優陽くんエスパー?」
「あはは、そんな大したものじゃないよ」
まあ、片付けが苦手なのにゲームがパッケージ通りに収められてるはずがないよね。
俺は手早くパッケージの中を正しいものに入れ替えていき、どんどん棚に収めていく。
「よし、終わり。あとは……」
俺の視線は自然とこの部屋から繋がっている2つの扉の方に向かう。
2LDKらしいし、1つは寝室だよね。じゃあもう1つはなんだろう? 物置きかな?
「乃愛、こっちの部屋も掃除しておいた方がいい?」
「ん、そっちはいい」
「え、そうなの? でもしておかないと困るんじゃ」
「そっちはいい」
「……」
「そっちはいい」
同じトーンで淡々と否定され、俺は「う、うん。分かった」と折れる他なかった。
そこまで入れたくない部屋って一体なんなんだろうか。
「この部屋なにがあるの?」
「………………ただの趣味部屋?」
「沈黙なっが。あとなんで疑問形? というか乃愛の趣味部屋ってことはゲームのコレクションとか? ちょっと見てみたいんだけど、入るのもダメなの?」
「ん、ダメ。乙女の秘密。セクハラ」
「セクハラ!? ただの趣味部屋なんだよね!?」
入るだけでセクハラになる趣味部屋ってなんなの!?
「とにかく絶対に入らないで。もし入ったら……」
「は、入ったら?」
「炎上する」
「なんで!? 部屋開けたら燃え上がる仕組みなの!?」
「ん、だから入らないで」
さすがに部屋を開けて発火するわけがないと思っていても、そこまで念を押すのならこれ以上の詮索はする気がなくなってしまう。
「寝室なら入っていい」
「……俺的にはそっちの方がハードル高いんだけど」
いや、ひより過ぎって思われるかもしれないけど、考えてみてほしい。
同年代の美少女の寝室だよ? 普通に考えて1陰キャが足を踏み入れていい領域じゃないよね?
寝室なんて最もパーソナルな空間なんだから、今みたいにリビングにいるのとはわけが違う。
例えるならRPGで最初に立ち寄る村と魔王城くらい違う。
大げさかもしれないけど、気持ち的には本当にそれくらいだ。
「それに、さっきの……し、下着類を押し込んでたのが寝室だったじゃん。入ったらまずくない?」
「ん、大丈夫。しっかりクローゼットに押し込んできた。抜かりはない」
乃愛が自信満々といった具合に頷く。
「それに、寝室にも服が溜まってきてる」
「……なら、片付けないといけないよね」
仕方ない。覚悟を決めて、寝室に入らせてもらおう。
(変に意識し過ぎるからいけないんだ。平常心、平常心っと)
俺は寝室への扉に手をかけ、そっと開ける。
部屋の中はシンプルで、大きめなベッドや姿見、棚などの家具が置いてあるごく普通の寝室って感じだ。
ここで着替えることが多いらしく、リビングに放置されていた衣服より数が多く見える。
とりあえず、長居はしないように手早く片付けてしまおうと、扉の傍に落ちていた服を拾い上げると、その下からなにか別の丸まった水色の布みたいなものが姿を現した。
俺は怪訝に思いながら、その布を反射的に拾い上げ、広げてみる。
「………………」
すると、丸まっていた布は見事な三角形にメタモルフォーゼした。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!?」
それがなんなのか頭の理解が追いついた瞬間、俺は悲鳴を上げて咄嗟にその布――水色のパンツを手から離す。
「ど、どうしたの優陽くん。もしかしてじ、Gでも出た……?」
俺の声に驚いた乃愛が、ひょこっと顔を覗かせる。
「Gは出てないけど! ぴ、ぴぴぴぴPが!」
「P……?」
なんのことか分かっていない乃愛が、徐々に俺の足元に視線を落としていき、「あ」と口を開けて固まった。
そして、その顔が徐々に赤くなっていき、
「……っ!」
バッともの凄い勢いで足元に落ちていた下着を回収し、胸に抱いた。
それから、俺に潤んだ瞳を向けてきて。
「ゆ、優陽くんのえっち……!」
「さすがにこれは理不尽過ぎるよね!?」
俺は叫んで反論せざるを得なかった。
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