第45話 陽キャ美少女は自覚し、目撃し、絶叫する

 翌日、昼休み。

 

 私たちは、昨日の今日なので私たちに注目を集めている人たちに聞き耳を立てられないように、人気のない体育館傍の階段に移動して腰を落ち着けていた。


「——なんだよ。なんか暗えから周りから色々と言われて目立ってんの気にしてんのかと思ったら、そんなことで悩んでたのかよ、お前」


 昨日あったことを優陽くんが説明をし終えると、話を聞いていた拓人が呆れ気味に言う。


 一応言っておくと、私のことは話していない。

 やっぱり、こんなに暗くて重たいものなんて、知られない方がいい。

 

 話しても、変に気遣われるのは分かりきってることだもんね。

 なにも打ち合わせしていないにも関わらず、話さないでいてくれた優陽くんには感謝だ。


(っ……! あー、ダメだこれ)


 そんな彼の優しさに胸のあたりが温かくなって、そこから心地のよい熱が広がっていく感じ。

 私は昨日のとある瞬間から、今この時まで、幾度となくこの感覚に襲われていた。


「でしょー? 私も聞いた時同じリアクションしたもん!」


 私はその感情を努めて押し殺し、会話を続けていく。


「うう……俺なりに本当に必死で悩んでたのに……」

「鳴宮は真面目過ぎるんだよ」

「和泉さんまで……」

「まあ、私はいいところでもあると思うよ? それに、もう済んだことなんでしょ? なら、あまり気にし過ぎない方がいいよ」

「う、うん。ありがとう」


 へにゃりと眉を下げ、落ち込んでいた優陽くんを梨央が微笑を浮かべながら慰める。

 すると、優陽くんはその慰めに眉を下げたままの困ったような笑みで応じた。


(……む)


 私はその様子を見て、密かに眉を顰める。

 ……この2人、いつからこんなに仲良くなったんだろう。なにかあったとしたら、間違いなく肝試しの時なんだけど……。


 と、内心で面白くないままに、訝しんでいると、優陽くんが「あの、皆」と佇まいを直し、真剣な目で私たちを見てきた。


 そのただならぬ雰囲気に私たちもつい、食事の手を止めて、彼へと向き直る。

 

「改めてなんだけど、そ、その……お、俺を、このグループに入れてください!」


 そう言って、優陽くんは私たちに向かって頭を下げてきた。

 そんな優陽くんをきょとんと眺めてから、拓人と梨央の方を見ると2人とも私と同じような顔をしていて、3人で見つめ合う。


 それから、揃って吹き出した。


「いや真面目かよ! グループ入るのにわざわざ許可取ったりとかしねえって!」

「もーっ、いきなり凄い真剣な顔するから何事かと思ったじゃん! 優陽くんってやっぱり変わってるよねー」

「い、いや、これは俺なりに筋を通したくて……!」

「まあ、予想つかないのがなんか鳴宮っぽいよね。でも、なんで急に心変わりしたの?」

「そ、それは……その……」


 問われた優陽くんの目が泳ぎ、一瞬私のところで止まる。


(……あ)


 その視線の意味と心変わりの意図を察して、私の胸がまたじんわりと温かくなった。

 きっと、私との約束を守る為に、彼は自分が分不相応と思いながら、周りからの視線を集めることを承知で、グループに入ろうとしてくれているのだ。


(もぉ……もぉーーーーーーーーー……っ!)


 抑えきれないほどのくすぐったさが、私の胸中をかき乱す中、梨央はなにかを察したように「ま、そんなこといいか」と口角を上げた。


「私は誘った側だし、歓迎するよ。皆は?」

「ま、断る理由もないしな。これからもよろしくってことで」


 拓人と梨央が私を見る。

 私だって、反対する理由なんかない。

 私は満面の笑みを優陽くんに向けた。


「だいかんげー! 改めてよろしくね、優陽くんっ」

「う、うん……!」


 こうして、優陽くんは私たちのグループに所属することになった。






「……のはいいんだけど」

 

 昼食を食べ終わった私は、お手洗いに行くと言って個室にこもり、1人でため息をついていた。


 と言っても、ほんとに用を足しに来たわけじゃなく、昨日から新たに抱えてしまった、私を悩ませている問題について考えたかっただけだったりする。


(ほんと、どうしたもんかなぁ、これ……)


 その問題というのは、まあ、その、優陽くんに対して抱えてしまったとある感情のことで。

 いや、言葉を濁さずとも、さすがに私だってこの感情の名前には気が付いているんだけど、どうにも急なこと過ぎて、頭がついていかないわけでして。


(……とはいえ、昨日よりは気持ちの整理もついてるし、まずはこの感情がほんとにそうなのか確かめないとね)


 昨日は恥ずかしくなって、逃げてしまったこともあって、まだワンチャンこの感情が雰囲気に呑まれただけの一過性のものな可能性も、あるわけだからね。

 

「……よし、とりあえず今日の放課後、優陽くんの部屋に遊びに行こう」


 2人きりになれば、嫌でもこの感情が本物なのかが分かるはずだ。

 ……まあ実のところ、一緒にいたいと思っている自分は、この際あえて見ないことにしておくとして。

 

 私は早速優陽くんにメッセージを飛ばす。


『(芹沢空)ね、優陽くん』

『(芹沢空)今日、放課後遊びに行っていいかな?』


 もはやうきうきしているのを隠そうともしないまま、待っていると、すぐに返信がきた。


『(優陽)あー……』

『(優陽)ごめん。今日は先約があって……』

『(優陽)明日なら大丈夫だよ』

「……」


 その文字を見た瞬間、私は目の前が真っ暗になるほどのショックに襲われた。

 どれくらいかと言うと、スマホを落としかけるぐらいには、ショックだった。

 

 ……え、なにこれ、もしかして明日地球終わる……?


 ぐにゃりと歪む視界の中、バカみたいなことを考えながら、私は理解した。


 ——ああ、私、ほんとに優陽くんのこと好きになっちゃったんだ。


 理解の仕方はちょっと、いや、かなり最悪だけど……そうじゃないとこのショックは説明がつかない。


(ま、まあ……? 元々自分の気持ちを確かめる為の連絡だったし? 明日遊べるって言ってるし? 別に振られたわけじゃないし? 大丈夫、私は可愛い)


 自分の気持ちは確認出来た以上、落ち込んでる場合じゃない。

 

(……うん。気持ちを切り替えて、これからどうアプローチしていくかを考えないと!)


 初めての恋愛だから慎重にとか、優陽くんを好きになる人なんて私しかいないだろうとか、そんなことは考えない。

 

 現にまだ付き合いの浅い梨央でさえ、優陽くんのことを気に入ってるわけで、彼は自信がないだけで、本来それだけ魅力のある人なんだから。


 うかうかしてたら誰かに取られちゃうかもしれないしね。


(まあ、とはいえ、私が1番仲がいい友達兼異性なのは間違いないことだけどね!)


 そんなことを考えつつ、返信していなかったことに気が付き、返信をしようとスマホに視線を落とし……。


「ん? ……先約?」


 私はその文字の違和感に改めて気が付き、首を傾げた。


(優陽くんに先約……? 誰だろう、拓人かな?)


 気になった私は、画面をフリックし、そのことを聞く為の文字を入力していく。


『(芹沢空)先約って? 拓人?』


 そうチャットに打ち込むと、返信に少し間が空いたにも関わらず、すぐに返信が戻ってきた。


『(優陽)いや、ゲームで知り合った人』

『(優陽)実はゴールデンウィーク中に仲良くなった人がいてさ』

『(優陽)その人と遊ぶ約束があるんだ』


 ……ゲームで知り合った人?

 私はそのメッセージを見て、眉を顰める。

 

(それ、いくらなんでもちょっと怪し過ぎじゃ……)


 どうしよう。ちょっとあと尾けて確認してみる? ……いやいや、いくらなんでもそんなストーカーみたいな真似をしていいはずが……ねえ?


 ……。

 …………。

 ………………。


 そして、放課後になって。

 私の数メートル前には、私に気付く様子のない優陽くんの後ろ姿があった。

 

(はい、結局気になって尾けてきちゃったわけですけどもね)


 いや、これは断じてストーカーなどではない。

 これは、そう……あれだ。もし、そのゲームの知り合いとやらに騙されていたら、友達として助けてあげないといけないから。

 

 彼を守る故の行動、つまりただ心配なだけなのだ。

 だって、普通に考えてゲームで知り合ったなんて怪しいし、危ないじゃん。

 

 あの超ド級のお人好しの優陽くんのことだ、壺でも買わされそうになったら断れないかもしれない。


 そうこうしている内に、優陽くんが住んでいるマンションの近くに着いて、彼が曲がり角を曲がった。

 私も気付かれないようにしながら、曲がり角からそっと顔を出す。


 そこには、優陽くんのマンションの前に立っている小柄な白髪の女性の姿が見えた。

 

 ベージュのチェック柄のカーディガンをシャツの上から羽織り、膝裏くらいまで長さの黒いミディスカートというコーディネートは女性の可憐さをより引き立てている。


 遠目から見ても、かなりのレベルの美少女だ。毎日自分という超可愛い美少女を鏡で見ている私が言うのだ。間違いない。


(……まさか、あの人が優陽くんが最近知り合ったっていう……?)


 いやいや、そんなまさか。

 広い世界であんな私クラス……い、いや、私より少し劣るくらいの美少女と自分が好意を持った相手がゲームで出会う確率なんていくらなんでも低過ぎる。


 拭いきれない嫌な予感を覚えつつ、物陰から様子をうかがっていると、どこかぼーっとしたように、空を眺めている少女が、ふと、こっちを……正確には優陽くんの方を見た。


「ごめん。お待たせ」

「ん。大丈夫。楽しみで私が早く来ただけ」


 優陽くんは、そんな美少女に親しげに声をかけ、白髪の少女も遠目からには分かりづらいけど、嬉しそうに口角をわずかに上げたように見えた。

 そして、2人はそのままマンションの中に一緒に入っていく。


 その光景を見ていた私は、しばらくその場に立ち尽くし、


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ!?」


 人目も憚らず、大声を上げてしまったのだった。






***


あとがきです。


これにて第1章は終了となります!

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!


カクヨムコンも残り1ヶ月、この調子で駆け抜けていこうと思います!


現時点でも多くの方に読んでいただけていますが、もっともっと多くの人に読んでもらって、この作品を盛り上げていきたいです!


なので、この作品が面白い! 続きが気になる! と思った方は、

ぜひ、フォロー🔖 評価☆ などをしていただければ嬉しいです!


よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る