第37話 現実だと意外と地味なイベントキャンプファイヤーと肝試しの始まり
昼間にスタンプラリーを行ったのとは別の、大きな広場。
その中心に組まれたキャンプファイヤー用の大きな木にたった今、火がつけられた。
初めはただ木の表面を撫でるだけの松明の小さな種火だったものが、徐々に組まれた木を飲み込んで、大きな炎へと変わっていくのは圧巻の一言に尽きる。
周囲から歓声のようなものが上がり、キャンプファイヤーは始まった。
ぱちり、ぱちりと木が燃える音がして、火の粉が暗闇の中を舞っているのは、どこか幻想的に想えて、つい魅入ってしまう。
「……でも、キャンプファイヤーって火を見る以外なにをすればいいんだろうね」
近くで同じく火を眺めていた芹沢さんが、ぽつりと呟く。
ぼんやりと火に照らされる横顔は、なんというかやっぱり整っていて、雰囲気のせいで儚げにも見えて、素直に綺麗だと思える。
実際、本人は気付いているのかは分からないけど、周りの男子から視線を集めていた。
(……まあ、それを言ったら確実にからかわれるから、口には出さないけど)
俺は近くに芹沢さん以外がいないことを確認して、口を開く。
ちなみに、藤城君と和泉さんは別の友達の所だ。
「ラブコメならこういうのって重要なイベントなのにね。現実だと、大きな火が上がること以外にテンション上がらない、派手に見えて、地味なイベントなことが多いよね」
「ほんとそれ! ラブコメなら大体告白イベントだったり挿絵が入ったりするのに!」
オタクなら分かると思うけど、ラノベやアニメなどで見た学校行事などのイベントは、大体現実だと地味に終わってしまうことが多いと思う。
楽しくないことはないのだけど、期待し過ぎて肩透かしを食らうみたいな感じ。
いや、このイベントだって特別なものに変えようと思えば変えられるんだろうけどね?
たとえば、あそこでなんか流行りの曲とか歌ったりして目立っている陽キャたちとか、周りから囃し立てられながら、踊っているカップルだとかみたいに。
(うーん。俺には絶対に無理)
目立つのが苦手なのにどうしてあんなことが出来ようか。
俺がそんなことを考えていると、芹沢さんがいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ふふん。どうやら、イベントを起こすには私からの好感度が足りなかったようだね」
「あはは、そりゃ残念。俺からの好感度はそこそこ高いのに」
「……っ!?」
芹沢さんが驚いたような顔をして、バッと俺を見てくる。
心なしか頬が赤くなってる気がする。
「どうしたの? というかなんか顔赤くない?」
問いかけると、芹沢さんはふいっと俺から視線を逸らしつつ、「き、気のせいだよ!」と反論してきた。
「そう? いや、やっぱり赤くない?」
「火のせいだよ! 絶対に!」
「えー、それにしては……」
顔を覗き込もうとすると、「気のせいなの! 火のせいなの!」と下手くそなラップっぽく言い返される。
必死に誤魔化そうとしてるようにも見えるけど、ここまで頑なに認めないなら、きっと彼女の言う通り、気のせいなんだろう。
ひとまず納得した素振りを見せていると、なぜか芹沢さんから恨みがましい視線が飛んできた。
「……一応聞いておくけど、君、それわざとやってるわけじゃないんだよね?」
「え、なにが?」
質問の意図が分からず、きょとんとすると、「……だよねぇ」と呆れたような呟きを漏らされた。
「え、本当になんなの?」
「せめてもの仕返しに教えてあーげない。そのまま困ってればいいよ」
べーっと舌を出し、芹沢さんが別の友達の所に走っていった。
えぇ……。本当になんなんだろう。
キャンプファイヤーもそこそこに先生たちから肝試しがあることが告げられた。
周りはざわついている人も多いけど、俺は知ってたので特段驚くこともなく、先生の説明に耳を傾ける。
ルールをまとめるとこんな感じだ。
・この付近に併設された神社にグループごとに歩いて向かう。
・神社に先生たちが手作りのお札を置いているらしいので、それを回収してくる。
・ただし、道中には先生たちが驚かせ役として待機していて、驚かせてくる。
・お札を無事に回収し、戻ってきたら随時解散し、部屋に戻ってもよい。
「ま、どこにでもある普通の肝試しって感じだな」
ルール説明を聞き終え、藤城君がそう零す。
「だねー。けど、先生たち、めっちゃ驚かせ役に気合い入ってたよ」
「そうじゃなきゃ張り合いがないでしょ? ……ね、せっかくだしさ、男女で2人1組に別れない? そっちの方がより面白そうでしょ?」
和泉さんが打ち合わせ通り、そう切り出す。
問題はここで芹沢さんがどういう反応を示すか、だけど……。
「それおもしろそー! 乗った!」
どうやら心配は杞憂だったようで、ノリノリな芹沢さんに俺は人知れずホッと胸を撫で下ろした。
「で、組み分けはどうやって決めるの?」
「ふっふっふ。肝試しがあるってことは調査済みだったからね。くじは既に用意してあるよ」
「さっすが梨央! よっ、出来る女!」
「うん、知ってる」
しれっと頷けるのが凄い。
しかも全然嫌味に聞こえないし。
「ほら、空。引いて」
「りょーかーい。……赤ー」
「じゃ、私が青ね。ほら、男子も」
そう言って、和泉さんが瞬きを2回した。
(えっと、瞬き2回は確か……)
俺はあらかじめ決められたサインを思い出しながら、右手に握られた2本のくじから、左にある方を引く。
「俺は青だったよ」
「ってことはオレが赤。空と一緒か」
手筈通り、俺たちは芹沢さんと藤城君を組ませることに成功した。
俺は再度こっそりと安堵の息を吐き出す。
「えー拓人と一緒ー? 頼りないなー」
「お前途中で置き去りにしてやろうか」
「うそうそ! 冗談だってば!」
仲良さげにやり取りをしている2人を見ていると、近くに来た和泉さんが「ふう、緊張したー」と小声で呟いた。
「え、そんな風には全然見えなかったけど」
「いやいや。私がしくじったら全部パーだからね。そりゃ緊張もするってもんでしょ」
「和泉さんっていつも堂々としてるから、全然気が付かなかったよ」
「あはは。こう見えて、結構小心者で緊張しいなんだよ? 私」
照れたようにはにかむ和泉さん。
……やっぱり全然そんな風には見えない。
小心者っていうのは、俺のような人間のことだと思う。
「あ、その顔信じてないな?」
「えっと、うん。正直ね」
「……まあ、すぐに分かるよ」
なにか意味深なことを呟かれ、俺は首を傾げる。
そんなこんなで、あっという間に俺たちのグループの番が回ってきた。
「んじゃ、お先」
「先行ってるねー」
芹沢さんと藤城君が先陣を切って、手を振りながら暗闇の中へ消えていく。
俺と和泉さんは、5分くらい遅れてスタートすることになっている。
「……時間だね。私たちも行こうか」
「うん」
5分経過し、俺たちも暗闇の中へ飛び込む。
右手に握った懐中電灯以外、光源が存在せず、舗装されているとはいえ、油断すると転んでしまいそうだ。
「……ところでさ、鳴宮」
「ん? なに?」
「鳴宮はホラーとか得意な方?」
「んー……どうだろう。ホラーゲームとかは結構したりするよ」
「そっかー」
なんでそんなことを聞くのだろうと思っていると、和泉さんが「実は私さー」と不意に腰あたりをきゅっと握ってきた。
振り向くと、そこには俯きがちな和泉さんがいて。
「——こういうのすごーく苦手なんだよね」
少し震えた声で、そう呟いた。
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