第35話 黒髪美少女との個人チャット

 それから1時間くらい経って、芹沢さんは別の友達の所にも行くことになり、この場はお開きになった。


 残りはあと1時間で、藤城君はまだ帰って来ていない。

 なので、俺は時間を潰すべく、電子書籍を読む為に横に置いていたスマホを手に取る。


(なんとなく、レポートって気分じゃなくなっちゃったしね)


 そう思いながら、スマホに視線を落としたところで、


「……そういえば、藤城君のこと、和泉さんに伝えないといけないんだっけ」


 別に急いで言う必要はないのかもしれないけど、多分、俺のことだし、話しかけるタイミングをうかがって、そのままずるずる逃し続けるのがオチだ。

 

 少し逡巡し、俺はスマホを操作して、RAINを開く。

 一応、林間学校のグループを作った際、恐れ多いことに友達登録させてもらっていたのだ。


 俺は、和泉さんとのまっさらなチャット画面を開く。


「……自分からメッセージ送るのって普通に話しかけるより緊張するなぁ」


 送る文を入力し、深呼吸を繰り返す。

 そして、今日のMPを全て使い切るつもりで、メッセージを飛ばした。


『(優陽)和泉さん』

『(優陽)ちょっといい?』


 緊張しながら、返信を待っていると、すぐに既読が付いた。


『(りお)お』

『(りお)まさか鳴宮の方から連絡してくるとはね』

『(りお)どうかした?』


 メッセージに目を通し、一旦一息入れて、俺は文字を打ち込んでいく。


『(優陽)藤城君のことなんだけど』

『(優陽)和泉さんに話していいって言われたから』

『(りお)もしかして』

『(りお)空とのこと?』

『(優陽)うん。藤城君は芹沢さんのことが好きだよ』

『(優陽)黙っててごめん。俺、実は知ってたんだ』


 ここで少し返信に間が空いた。

 どう返すべきか考えているのかもしれない。


『(りお)そっかー』

『(りお)ま、でもこれに関して鳴宮が謝る必要はないよ』

『(りお)むしろ、あそこで口を割ってたら、好感度下がってた可能性すらあるからね』

『(りお)鳴宮がそういうやつじゃないって分かって安心した』


 よかった。やっぱり、あの時の俺の判断は間違っていなかったみたいだ。


『(優陽)あと、余計なことと、露骨なサポートはしないでくれって』

『(りお)その辺は分かってるから、だいじょうぶ』

『(りお)私だって、変にグループ拗れてほしくないし』

『(優陽)そうだよね』

『(優陽)俺はこの行事限りのゲストだけど』

『(優陽)皆はずっとグループとしてやっていかないといけないんだもんね』


 そこで、また返信が来るまでに間が空いた。


『(りお)私、私たちってもう友達じゃんとか言わないんだけどさ』


 ……? 急になんの話だろ。


『(りお)でも、鳴宮のことはもう結構仲間だと思ってたみたいで』

『(りお)今、ゲストって言われて少し動揺しちゃった』

『(りお)ね。鳴宮さえよければさ』

『(りお)このまま私たちと一緒のグループに入るってことも検討してみてくれない?』

「え」


 俺が、クラスのトップカーストグループに……?

 突然のお誘いに俺の思考が止まっている間にも、スマホにはメッセージが届く。


『(りお)空はもちろん、私も、拓人も鳴宮のこと結構気に入ってるからさ』

『(りお)鳴宮が、このグループに入ってくれれば嬉しい』


 そこで和泉さんからのメッセージが途絶えた。

 多分、俺からの返事を待っているのだろう。

 俺は考え、慎重に文字を打ち込んだ。


『(優陽)気持ちは凄く嬉しいけど』

『(優陽)やっぱり俺は和泉さんたちのグループには入らない方がいいと思う』

『(優陽)和泉さんたちがいいって言ってくれても、きっと周りが許してくれないからね』


 俺が誘われているのは、ただのグループじゃない。

 学校全体で見ても、1軍のメンバー。トップカーストのグループだ。

 誘われたからって俺なんかがおいそれと所属していいわけがない。

 

『(りお)そっか。それは残念』

『(りお)けど、気が変わったらいつでも言ってね』

『(りお)その入場用のチケット、使用期限なしだから』

『(優陽)うん。ありがとう』


 茶目っ気のある言い回しに、頬が緩んだ。


『(りお)それで、話は拓人のことに戻るんだけど』

『(りお)実はキャンプファイヤーのあとに肝試しがあるかもって話を聞いたんだよね』

『(優陽)肝試し?』

『(りお)そう。先生たちが内緒で企画してるみたい』


 へー、そうなんだ。

 けど、内緒なら和泉さんは一体どこからその話を聞いてきたんだろう……。


『(優陽)で、その肝試しがどうしたの?』

『(りお)グループごとに行動させられるらしいから』

『(りお)空と拓人を組ませようってこと』

『(りお)メンバーは林間学校のグループの中でじゃなくて自由に組んでいいらしいけど』

『(りお)私たちはグループで動くことになると思うし』

『(りお)せっかくだし男女の2人1組で動こうって提案してさ』

『(りお)男女ペアはくじ引きで決めることにしようよ』


 なるほど。

 確かに、肝試しはラブコメにおいても、男女の距離を縮めるのにうってつけなイベントだしね。

 

 それに、4人の中でくじを引くなら芹沢さんと藤城君がペアになる確率は50パーセントだし、細工しても気付かれないはずだ。

 

『(優陽)いいと思う』

『(りお)おっけ。じゃあそれでいこう』

『(りお)拓人には鳴宮から言っておいてくれる?』

『(りお)細かい作戦はまた3人で話し合おうよ』

『(優陽)うん。分かった』


 俺と和泉さんのチャットはとりあえず、一旦そこで終わることとなった。






 それから、少しして帰ってきた藤城君に、和泉さんとの会話の内容を伝えた。

 藤城君もキャンプファイヤーのあとに肝試しが企画されていることを知らなかったみたいで、ちょっと驚いていた。


「肝試し? そんなんあるのかよ」

「うん。俺も聞いただけだから、本当かどうか知らないんだけど」

「梨央が言うんだし、あるんだろ。あいつ、めっちゃ校内の情報に詳しいし、仲良い教師も多いから」


 お、恐るべし和泉さんのコミュ力。

 多分、和泉さんは相手から自分がどう見えているかを理解して、計算して動けるタイプだ。強い。


「で、くじ引きでオレと空を組ませる、と」

「う、うん。ダメかな?」


 おずおずと尋ねると、藤城君はため息をついて、頭をガシガシとかいた。


「……まあ、ダメってことはねえよ。本来、頼まないといけないのはこっちなんだしな」


 そう言い、藤城君が「よろしく頼む」と頭を下げてくる。


「うん。って言っても、俺が直接なにかするわけじゃないんだけどね」

「だとしても、だ。巻き込んだのに頭すら下げないの違えよ」


 ぶっきらぼうな言い方だけど、その言葉からは藤城君の誠実さがうかがえる。

 そんなことを話していると、郊外学習の時間が迫ってきていた。


 俺たちもそろそろ行かないとまずい。

 藤城君も同じことを思ったのか、「そろそろ行くか」と切り出してくる。

 

 俺は頷き、藤城君と一緒に部屋をあとにした。

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