第34話 陰キャの天然カウンター
そんなこんなあって、俺たちは話し始めた。
男女が部屋に2人きり、しかも、相手はとびきりの美少女。
だから、俺のような陰キャは緊張して上手く話せず——。
「俺、絶対この作品書籍化すると思うんだよね」
「あ、私も私も!」
なんてことはなく、どこまでいってもいつも通りだった。
なんなら男女が2人きりで部屋にいるのに色気もへったくれもないオタ話で普通に盛り上がっている。
もしこれが初めてだったら、そりゃ上手く話せなかったとだろうけど、部屋がホテルに変わろうが、2人きりなのはやっぱりいつもと変わらないし。
そんな俺たちの会話の内容は主にウェブ小説のことだ。
ラノベはここ1ヶ月の付き合いで、お互いに殆ど布教してしまっているし、ここは山なので電波が悪く、アニメを観るのにも適していない。
そうなると、俺たちのようなラノベをよく読み、トークデッキがオタク系メインの人間が、ウェブ小説というジャンルの話題に行き着くのは自然なことだろう。
「あ、見て! この作品面白そう!」
と、隣に腰掛ける芹沢さんが、スマホの画面を俺に見せる為に身体をこっちに傾けるようにして近づけてくる。
その際、毛先に軽くウェーブのかかった茶髪のセミロングがふわり、と身体の動きに合わせて流れた。
俺の知識じゃ形容出来ないような、柔らかくていい匂いが鼻をくすぐってくる。
ウェブ小説の話がメインなので、お互いのスマホを見せ合う為に、ほんの少しだけ距離が近い。
話題も雰囲気もいつも通りなのに、唯一そこだけが、いつもとは違う点だ。
(……いつもはここまでウェブ小説の話メインじゃないもんなぁ)
ゲームしたり、お菓子食べたり、ラノベの話をしたり、1つのことをずっとやりはしないし、話はしない。
というか、同じ部屋にいるのが慣れてるからとか言ったり、芹沢さんに対して友達としての好意しか持っていないつもりでも、たまにこういう風に、相手が異性だ、と意識させられることはどうしたってあるのだ。
「……どれどれ?」
動揺したのを悟られないように一拍置いて、俺がスマホを覗き込もうとする。
すると、芹沢さんがなせが俺の方をじーっと見つめてきていた。
それから、にやりといたずらっぽい笑みを浮かべる。
「さては優陽くん。今私に見惚れてたね?」
「え、ちょっとなに言ってるのか分かんないかな自意識過剰なんじゃないのよし作品の話に戻ろうそうしよう」
「一息!? 分かりやすっ!?」
あははと芹沢さんが声を上げ、楽しそうに笑う。
「まあ、私みたいな可愛い美少女が隣に座っててなにも反応しないのは無理があるから、仕方ないね」
「……で、反応されないのも複雑、なんでしょ?」
「お、分かってきたね」
この人は本当に、惚れてほしくないと言う癖に、惚れさせるような行動を取ってくるのが、めんどくさい。
(まあ、俺がどうやっても自分に惚れないっていうのが分かってるからこそなんだろうけど)
というか、それが分かってないのに、そんな行動を取っていたらなにがしたいのかよく分からないヤバい人だ。
そもそも、俺は正直なところまだ、自分なんかが芹沢さんの友達でいることすらおこがましいと思っている部分がある。
その考えがあるのに、それを飛び越えて、異性として好意を持て、なんて土台無理な話だ。
俺がそういう考えだからこそ、芹沢さんも俺の部屋に安心して遊びに来れているのだろう。
まあ、それはそれとして、芹沢さんを可愛いと思っているのも間違いないことなんだけど。
「おーいもしもーし、優陽くーん?」
「え、あ、なに?」
「なに、はこっちのセリフだよ。急にぼーっとし始めるんだもん。もしかして、疲れてる?」
こっちを気遣うような、瞳と言葉。
いけない。自分で思うよりも、考えごとをしている時間が長かったようだ。
「ごめんごめん。ちょっと考えごとをね」
「考えごと?」
俺は頭の中に広がっていた思考を片していきながら、口を開く。
その結果。
「うん。芹沢さんは可愛いなーって」
「うぇっ!?」
もの凄く端折られた、人が聞けば口説いているとしか思えないような言葉が飛び出した。
「な、ななな……!? なに急に!?」
「あ、ご、ごめん! 今のは間違いで!」
「や、私が可愛いのは間違ってないでしょ」
「急にすんってならないでよ……」
でも、そのお陰で落ち着いた。
「というか、息をするように自分から言ってくるのに、なんで言われる側になると弱いのさ」
「し、仕方ないじゃん! いつもは皆はいはいみたいな感じで適当に流してくるんだから! あと前にも言ったけど、君が言うと心からの本心だって分かるから受け流せないんだって! あと今のは不意打ち! ずるい!」
1言ったら4くらい返された。過剰コンボが過ぎる。
顔を赤くして「あーもう、ほんっとそういうところだよ……」と小声で呟く芹沢さん。
「前から聞こうと思ってたんだけど、そういうところってどういうところ?」
「だからひとりごとを当たり前に拾わないでよ!」
「それは俺がひとりごとを聞き逃さないって分かってるはずなのに呟くそっちが悪いんじゃ……」
「……っ! ……っ!」
言ってみたら頬を膨らませた芹沢さんが肩をぺしんぺしん叩いてくる。
痛くはないけど、言い負かされて武力行使はどうかと思います。
ひとしきりぺしんぺしんされて、ようやく芹沢さんの頬から空気が抜けた。
「気は済んだ?」
「……ひとまず今回は引き分けってことにしておいてあげるよ」
「それはどうも」
なおもぶすーっとむくれる芹沢さんに、思わず笑うと、もう1度肩をぺしんと叩かれた。
そのあと、話を切り替えてオタクトークに戻すと、あっさりと機嫌を直してくれて、俺たちは再び話に花を咲かせることとなった。
***
あとがきです。
ここまで読んでいただきありがとうございます! 感謝です!
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