第33話 陽キャ美少女の襲来
後片付けを終わらせて、俺は藤城君と一緒に部屋に戻ってきた。
ここからキャンプファイヤーの前にある校外学習の時間まで、自由時間となる。
「つっても、まだ結構時間あるしなぁ」
スマホの画面を確認した藤城君がぼやく。
現在の時刻は14時で、郊外学習は16時から2時間ほど行われ、その後、夕食を挟んでから19時からキャンプファイヤーの予定だ。
ちなみに、夕食と明日の朝食は宿舎側で用意してくれることになっている。
「どうしよっか?」
「んー……そうだなぁ。ま、のんびりしとこうぜ。オレら山登ってきたり、アスレチックやったりで割とハードに動いてんだから」
「そう言われればそうだったね」
身体を鍛えておいてよかった。
じゃないと、絶対にバテて動けなくなっていただろうし。
でも、本当になにをしようかな……1人だったら間違いなく電子書籍を読んでるところなんだけど……藤城君がいるのにスマホに齧り付くのはダメだよね。
と、俺が悩んでいると、ピロンという音が部屋に鳴り響いた。
「お。オレだ」
「うん。そうだろうね」
こういう時、どっちのスマホか分からず、自分のものを確認してしまうことがあると思うけど、友達の少ない俺にそんな習慣はない。
最近は友達も増えたとはいえ、基本的に俺のスマホは静かだ。
「……あー」
スマホを確認した藤城君が、気まずそうな声を上げる。
「どうしたの?」
「いや、友達からなんだけどさ。部屋に遊びに来ないかって誘い」
「そうなんだ。……え、じゃあなんでそんな気まずそうな顔してるの?」
「や、だってなんかお前を部屋に1人置いて別の奴んとこに遊びに行くのってめっちゃ感じ悪くね?」
藤城君は気遣ったような目を俺に向けてくる。
なんていい人なんだろう。
「いいよ。行ってきて」
「でもさ……あ、なんならそいつに話通すから一緒に––––」
「ごめんそれは無理! 誘ってくれてありがとう!」
「まあ、だよなぁ」
俺の食い気味な否定に、苦笑が返ってくる。
「本当に大丈夫だよ。俺は部屋で電子書籍でも読んでるから」
「……分かったよ。なら、ちょっと行ってくるわ」
「うん。行ってらっしゃい」
最後の最後まで、申し訳なさそうにしながら、藤城君は部屋から出て行った。
イケメンな上に気遣いも完璧、そりゃ人気者なわけだ。
俺は電子書籍を読もうとして、
「あ。そういえば、レポートの課題もあるんだった」
いくら緩い旅行のような行事とはいえ、そこはしっかりと課題が出されている。
……うん。先にちょっとやっておこうかな。
そう思い立ち、鞄の中からレポート用紙を取り出していると、
––––コンコン。
控えめなノックの音が聞こえてきた。
誰だろう。俺を訪ねてくる人なんていないはずだし、藤城君の友達かな?
首を傾げながら、扉の前に移動して、覗き穴から外を見る。
「……あれ?」
誰もいない。
怪訝に思いつつ、そっと扉を開けると、
「––––わっ」
「わぁ!?」
扉の影から誰かが顔を覗かせた。
俺を驚かせたその人物……芹沢さんは「ししし」といたずらが成功してご満悦の様子だった。
って芹沢さん!?
「やっほー、優陽くん。来ちゃった」
「いや来ちゃったじゃないよ! 異性の部屋に行っちゃいけないって言われてたでしょ!?」
緩いように見えて、そこはきちんと線が引かれているのだ。
「えー? そんなの守ってる人いないよ? 皆結構先生に見つからないように男子の部屋に遊びに行ってるし。多分先生ももう黙認してるし、飾りみたいなもんだよ、そんなルール」
「だからってさ……!」
「まあまあ。もうここまで来ちゃったんだから。それより早く部屋に入れてくれないと先生来ちゃうよ?」
「……っ! ああ、もう!」
俺は周囲を素早く見回し、誰もいないことを確認してから、芹沢さんを部屋に引き入れた。
「お邪魔しまーす。あ、やっぱり部屋の構造は一緒だ」
「そりゃそうだよ……で、リスクを冒してまでなにしに来たの?」
「そんなの遊びに来たに決まってるじゃん」
あっけらかんという芹沢さんに、俺はため息をつく。
まあ、もう来てしまったし、部屋に入れてしまった以上、諦めるしかないのだろう。
「ところで拓人は?」
「別の友達の所に遊びに行ったよ」
「へーそうなんだー」
なぜか芹沢さんがにやにやと笑みを浮かべた。
「つまりは1人で寂しくしてたところに、ちょうど私が来ちゃったわけかー。口ではあんなこと言っておいて、ほんとは嬉しいんじゃないのー? 私みたいな可愛い女の子が自分に会いに来てくれて嬉しいんじゃないのー?」
「レポート書こうとしてたのを邪魔されたので、そんなことはないです」
というか、それいつもと状況変わらないし。
「……で、和泉さんは? 放っておいていいの?」
「梨央は別の友達のところー」
「って、そっちも暇だったんじゃないか」
じとりした視線を送る。
しかし、てへっと可愛らしい笑顔で打ち返されてしまう。
「……はあ。だったら芹沢さんも別の友達のとこに行けばよかったんじゃないの?」
俺がそう言うと、今度は芹沢さんが呆れたような顔をする。
「もー言わないと分かんないかなー優陽くんはー」
なにが、と言いかけ、「いいですか」と人差し指を目の前に突き立てられ、思わず口を閉じた。
「確かに私は優陽くんと違って友達が多いです」
「ねえ、それジャブのつもりなんだろうけど、俺にとっては必殺ボディブローと変わらないからね?」
「実際に誘いもたくさんありました」
俺の声は完全に無視され、芹沢さんは「でも」と続ける。
「そんな中で、私は君を選んだんだよ? まったく。みなまで言わせないでほしいなー」
頬を膨らませながら言われ、俺は完全に返す言葉を失った。
そんな俺を見て、芹沢さんが楽しそうに笑みを弾けさせる。
「お、クリティカルヒットって感じ?」
「……うるさいな」
「はい図星ー。まあ、可愛い私にこんなこと言われたらそれも仕方ないってもんだね」
うんうん、と分かったように頷く芹沢さんに、俺はただ、「……台無しだよ」完全に毒気を抜かれた呟きを零すしかなかった。
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