第29話 陰キャと陽キャのアクティビティ体験
足を踏み入れた広場には、アスレチックなどの遊具が数種類ほど設置されていた。
ここで色々なアクティビティが体験出来て、クリアしたらスタンプが貰える仕組みらしい。
ちなみに、スタンプを全て集めれば、景品が貰えるのだとか。
「うおっ、あのアスレチック、思ったより本格的だな」
「そうだね。あ、そこでスタンプラリー用のカード貰えるみたいだよ」
広場の入り口に受付があったので、俺たちはまずカードを受け取って、スタンプラリーについての説明を受けた。
どうやら、初級、中級、上級の3つのコースがあって、貰える景品もクリアしたレベルに応じて変わり、カードは1人1枚ではなく、グループで1枚扱いとのことらしい。
「おし、せっかくだし、全部上級クリア目指そうぜ」
「もち! 全員運動神経いいし、いけるいける!」
「だね。やるからには、絶対クリアしよ」
「う、うん」
説明を受け終えた俺たちは、早速アスレチックに挑むべく、気合いを入れる。
3人が特に燃えてるけど、俺は足を引っ張らないかが不安だ。
「それじゃ、なにからしよっか?」
「……お。じゃあ、あれなんてどうだ?」
藤城君の指差す先に視線を向けると、そこには垂直の壁に、色とりどりで大小様々な形の石のようなものが貼り付けられていた。
「へえ、ボルダリング? いいじゃん。私ちょっとやってみたかったんだよね」
「私も私も。えっと、レベルごとに使える色の石が減っていって、上級だと1色しか使えないらしいよ」
「なら、上級コンプ目指すならさすがにこれは男側でやった方がいいんじゃねえの?」
「うーん、そうかもね……。まあ、スタンプ目的じゃなくても普通に遊べるみたいだし」
あれよあれよという内に話がまとまっていく。
なんだろう。コミュ力もそうなんだけど、こういう場においての場数だとか、小慣れ感とでも言えばいいのか、きっと、彼らは小さい頃からコミュニティの中心に立つ存在だったんだろうな、と思わされる。
「じゃあ、そういうことで。いけるか、鳴宮」
「自信はないけど……とりあえず頑張ってはみるよ。ただ、やるのは初めてだし、初級とかで練習してから挑みたいかな」
「だな。じゃ、ちょっと初級から慣らしていくか」
さすがに練習をせずにぶっつけ本番じゃないといけないなんてルールはないみたいなので、俺たちはまずは全員で楽しむことに。
「よ……いしょっ……! やたーっ、到達ー!」
「お疲れー」
初級コースを登り終えた芹沢さんが、同じく、先に上まで登っていた和泉さんと「いぇーい」とハイタッチをしている姿はなんとも微笑ましい。
最初は慎重に確かめながら登っていた2人だったけど、すぐにコツを掴んだらしく、後半に入る頃にはすいすいと登っていたあたり、センスがあるのだろう。
運動神経がいいのはなんとなく知っていたけれど、まさかここまでのものだとは。
まあ、そんなことを考えながら下から見上げている俺も、既に初級は登り終えていて、今から中級にチャレンジするところなんだけど。
初級ということもあり、やっぱり誰にでもクリア出来るような難易度になっているみたいだ。
「っし! 中級もクリア!」
そんなことを考えていると、中級コースに挑戦していた藤城君が1番上まで辿り着いたらしい。
さっきよりも使える石が減っているのに、かなり早い。
「おー、やるね拓人」
「運動神経いいのと顔がいいのが取り柄だもんね」
「他に取り柄がないみたいな言い方やめろよ! 性格もいいだろうがよ!」
「本当に性格のいい人は自分で自分のことを性格いいなんて言いませんー。ねー、梨央」
「ねー。ついでに勉強もあまり出来ませんー」
「だぁーっ! うっせえよ! 見てるか鳴宮! これがこいつらのやり方だぞ!」
上の方で繰り広げられるやりとりに、俺は見上げながら「あはは」と苦笑する他ない。
ひとしきりのやりとりを聞いたところで、登り始めるべく、俺も石に手をかけた。
そのまま、身体全体を使い、上へ上へと次々に手と足を石にかけ、登っていく。
最初は難しいかと思ってたけど、コツを掴めば意外といけるもんだ。
「ふぁいとー、優陽くーん」
「ほらーあと少しだよー頑張れー」
その声に、少しだけ視線を上に向ければ、そこには笑みを浮かべてこっちを見下ろすタイプの違う美少女が2人。
……なんだろう、俺明日死ぬ?
もしくは実はもう命を落としていて、魂が上へ昇っている最中で、上で待っている天使が2人の姿に見えているかだ。
なにを言ってるのか分からないと思うけど、俺もよく分かってない。
……まあ、冗談はさておき、学校でも指折りの美少女たちが俺のことを応援しているという信じられない光景だった。
そのかいもあってか、かなりすいすいと登ることが出来、あっさりと中級もクリア出来てしまった。
「さっすが優陽くん! いぇーい!」
「やるじゃん、鳴宮」
「あはは、2人の応援のお陰だよ。ありがとう」
照れながら、2人のハイタッチに応じる。
「お前らオレの時と反応違い過ぎんだろ……!」
「だって拓人が運動出来るのはもう見慣れてるし、なんか新鮮味に欠けてるし」
「その点、鳴宮にはそれがあるから。ドンマイ、拓人」
「それオレが悪いの!? お前らの問題じゃねえ!?」
相変わらずいじられ続けている藤城君はさて置き、俺たちは併設されている階段で下へと降りた。
次はいよいよ、上級コースだ。
「ねえねえ、やっぱり私も挑戦してみてもいい?」
「ん? 別に好きにすればいいだろ?」
「よーっし、私がクリアしてスタンプゲットしてきてあげる!」
意気込んだ芹沢さんが、上級コースの1つ目の石に手をかける。
序盤はするすると登っていた芹沢さんだったけど、中盤からぴたりと進みが止まってしまう。
使える石の色は1つだけなので、それだけ難易度が高い、ということだ。
「えっと、ここはこうして……でもそしたらその先が……あれぇ……?」
首を捻っていた芹沢さんはやがて、握力の限界が来たのか、「ダメだー」と手を離す。
ちなみに、足元には柔らかいマットが敷かれているので落ちても平気な仕様になっている。
「って、わっ!?」
しかし、マットが柔らか過ぎたのか、綺麗に着地したと思った芹沢さんが、足を取られてバランスを崩し、ふらふらと後ろにたたらを踏む。
一応、転んだらまずいと思い、先回りして、下がってくる芹沢さんをぽすんと受け止めた。
「大丈夫?」
「あ、うん。ありが……」
お礼を言いながら、芹沢さんが俺の胸の中で顔だけで振り返り、見上げてきた。
そのせいで、至近距離で目が合う。
そして、なぜかお礼の途中で言葉を止めた芹沢さんは、
「……わ、私が可愛くてごめん」
「うん。それを言うタイミングは今じゃないよね?」
突然自画自賛に走り始めた。
まあ、思ったよりも顔が近かったことで驚いたことへの照れ隠しなんだろうけど。
それ、言われなきゃ俺の方は気にならなかったのに。
「や、やっぱりここは男子に任せた! 行け、優陽くん! 君に決めた!」
「え、俺モンスター?」
というか名指しを受けてしまったけど、最初が俺でいいんだろうか。
そう思い、藤城君の方にちらっと視線を向けると、肩を竦めて、呆れながら首をくいっとされた。
どうやら、仕方ないから譲ってやる、ということらしい。
そういうことなら、まあ、挑戦だけしてみよう。
その後、俺はどうにか期待に応えることに成功して、無事に上級のスタンプを手に入れることが出来た。
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