第24話 休み明け、朝の一幕

 色々と濃い出来事の起こったゴールデンウィークが終わって、今日からまた学校だ。

 周りを歩く学生や、出勤途中のスーツを着た大人たちは、連休が明けてしまったせいか、なんだか覇気がないように見える。


 かくゆう、俺自身もこの連休中に起こった出来事が濃過ぎて、あっという間に過ぎ去った感覚で、長期休暇が終わった時特有の怠さがないわけじゃないんだけど。


 それでも、連休が終わったことの虚しさに共感しつつ、周りの人たちをどこか他人事のように見られているのは、このゴールデンウィークが今までにないくらい充実していたからだろう。


(まあ、気持ちはどうあれ、身体は完全に休みから切り替わっていないし、眠いんだけども)


 つい休み中の癖で夜遅くまでオタクコンテンツの消費をしたのがよくなかったなぁ。

 そんなことを考えつつ、あくびをしながら教室に入ろうとすると、


「——わっ」


 ちょうど教室から出てこようとした和泉さんとぶつかりそうになってしまった。

 俺が謝罪の言葉を口にしようとするも、その前に驚いた顔をしていた和泉さんが、少し口角を上げ、親しみのある笑みを浮かべ、口を開いた。


「びっくりしたー」

「ご、ごめん和泉さん。俺よく前を見てなくて」

「それはお互い様でしょ。はよ、鳴宮」

「あ、うん。おはよう」


 俺はそこで会話が終わるものだと思っていたんだけど、


「ふうん?」


 和泉さんはなぜか、俺の顔をまじまじと見つめてくる。

 俺は「な、なに?」と少したじろいでしまう。


「や、こうしてよく見てみると、本当に悪くない顔してるんだなって」

「え、えーっと……あ、はは、ど、どうも……?」


 返答に困った俺は、とりあえず愛想笑いを浮かべる。

 そんな俺を見て、和泉さんはくすくすと笑い、「言っとくけどお世辞じゃないからね」と踵を返しながら、手のひらをひらひらと振り、去っていった。


(お世辞じゃないって言われてもなぁ……)


 やっぱり困る。

 困惑8割、嬉しさ2割って感じだ。

 でも、ちゃんと嬉しさも感じているあたり、少しは皆からの評価を勘違いだとか思わず、素直に受け止められるようになってきたのかもしれない。

 

(少しは成長したってことなのかな)


 それも、やっぱりよく分からなかった。

 ひとまず、このままここに立っているわけにはいかないので、教室の中に入る。


「ん」


 すると、こっちを見ていた芹沢さんと目が合った。

 友達と話していたらしい芹沢さんは、小さく笑みを浮かべ、周りに気付かれないように口をぱくぱくとさせながら手を振ってくる。

 

『お・は・よ・う』


 読唇術をしているわけじゃないから正確には読み取れないけど、多分そう言ってる。

 なにも反応をしないのはまずいので、小さく会釈を返し、自分の席へ。


 椅子に座ると同時に、スマホが振動。

 ポケットから取り出して画面を見ると、やっぱり芹沢さんからだ。


『(芹沢空)おはよー優陽くん!』

『(芹沢空)梨央と話してたみたいだけど、なに話してたの?』

『(優陽)おはよう』

『(優陽)なにって言われれば、挨拶とちょっとした会話?』


 横目でメッセージの送り主を盗み見ると、友達と会話をこなしつつ、机の下でノールックでスマホを操作していた。


 だからどんな妙技だ。

 なんで誤字もなしにこんなに早く打てるんだよ。


『(芹沢空)へー! そうなんだ!』

『(芹沢空)やっぱり、梨央って優陽くんのこと気に入ったんだろうねー』

「へ」


 送られてきた文面に、思わず間の抜けた声が出てしまった。

 なんでただ挨拶してちょっと会話しただけなのに、それが気に入られたってことになるんだろう。


 そう尋ねると、すぐに返信がきた。


『(芹沢空)だって特に気にしてない人とちょっとした会話なんてしないよ』

『(芹沢空)挨拶ならまだしも』

『(芹沢空)梨央ってそういうタイプだし』

『(芹沢空)だから喜んでいいよ! 私も鼻が高い! あと優陽くんを見出した私、さすが!』

『(優陽)急に気に入られてるって言われても……』

 

 後半の自画自賛はスルーしつつ、俺は戸惑う。

 俺なんかのどこを気に入ったって言うんだろうか。

 正直考えてもまったくピンとこない。連休明けから反応に困ることばかりだ。


『(芹沢空)だから喜んでおけばいいんだってば!』

『(芹沢空)優陽くんがどれだけ自分のことを卑下して自分なんかって言ったとしても』

『(芹沢空)そんな君を気に入ってくれてる人がいるんだから!』

『(芹沢空)それは絶対に謙遜とか卑下じゃなくて、胸を張っていいところ!』


 そんなメッセージのあとに、デフォルメされた白猫がぷんぷんと怒っているスタンプが送信されてくる。

 ……そっか。そうだよね。


『(優陽)なら、素直に喜ばせてもらおうかな』


 わーいわーいと喜んでいるデフォルメされた犬のスタンプを送る。

 友達がほしいって思ってた癖に、いざ自分を好意的に見てくれる人が出てきたら、俺なんかって言うのは、違うよね。


 自信なんて今もあまりないってそういうところにはすぐに胸を張って言えるけど。

 少なくとも、ゴールデンウィークに入る前の自分とは違って、友達もまた1人出来たわけだし。


 やっぱり、ちょっとくらい成長したって思ってもいいよね?


 ほんの少しだけ、自信が付いたような気がする俺は、芹沢さんとのメッセージをそこそこに切り上げ、ほんのわずかに浮かれた気分の中、ラノベを取り出したのだった。






***


あとがきです。


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