第2話

大学のテストが終わると大学生は4月までは自由時間で、

過ごし方に差がでる期間だ。


去年はアルバイトをしては、

稼いだ金のほとんどを

梅田の排水溝や溝にゲロとして垂れ流した。


年末年始だし、

テストが終わったし、

春休みだし、

花見だし、

GWだし、

といったことで、

何かと理由をつけて自分を納得させて、

結局1年中、稼いでは酒を飲んでいた。


冷静な時はそんなにしてまで自分を納得させて

ゲロを吐きたい気持ちが全く理解できない。


今年はそんな風にはなりたくないとは思いつつも、

明日の休みに一緒に吐くまで飲んでくれる友達を探して、

LINEのともだちの画面をスクロールしていた。


・・・・ポコン!

LINEのチャットが鳴る。

「お、誰か返事してくれたかな。」と思って

ともだちのタブから、トークのタブに移動する。


『かずきち』からのLINEが来ている。

かずきちこと、佐々木一成(ささき かずなり)は

大学の喫煙所で親しくなった、1個上の先輩だ。


自分はかずきちさんのあだ名の中の「きち」に違和感を感じた。

後輩が「きち」なんか付けて呼ぶのはなんだか失礼な気がしたのだ。

対策として自分は「きち」を取っ払ってかずさんと呼んでいた。


女からのLINEが欲しい気分だったので、

「かずさんかい。」という気持ちにはなったが、

取り合えずトーク画面を開いてみる。


かずさんとは喫煙所で挨拶をして、授業の合間の暇な時間に、

当たり障りのない会話をする程度の距離感だったので、

急にLINEが来ることは珍しかった。


なんやろ、と思ってトークを開くと、

「しゅうくん、自転車いらん?」という文章と一緒に

ロードバイクの写真が送られてきていた。


かずさんは大学の近くで一人暮らしをしていたので、

ロードバイクに乗って通学してくる姿は何度か目にしたことがある。


あの自転車か…

見た目はかっこいい。

多分結構いいやつだ。

もらっといて損はなさそうやな。

でも即答で「ください!」と返事するのは厚かましいと思ったから、

「え!うれしいですけど、かずさんもう使わないんですか?」

と一旦様子見のジャブ返事をした。


自分がすぐに返事をしたから、

特に用事をしている瞬間ではないと踏んだのだろう。

電話がかかってきた。


「おつかれっす」


「しゅうくん、おつかれ!返事すぐありがとな。今大丈夫やった?」


「大丈夫っすよ、自転車のことですか?」


「そうそう、時間あるなら電話したほうが早いと思って」


「そうかな思いました。でもいいんですか?もらうの。あれたぶん結構いいやつでしょ?」


「就職先が決まってんけど、赴任がなんと鹿児島やねん。住む予定の場所検索したんやけどさ、とてつもない田舎っぷりで、自転車なんか使わないってか、もはや完全車生活になりそうやねん。

実家に持って帰ろかなおもてんけど、うち上の兄弟しかいなくて全員実家出てるから、実家持って帰っても60歳越えの親しかおらんから、乗る訳もないねん。」


「まぁ確かに、60越えてる親があのロードバイク乗りだしたらこけないか心配なりますもんね。」

(この手の自分の有利になるように話を進めるのは割と得意な方だ)


「ほんま、せやねん。ほんで来週から東京でまとまった期間研修がはじまるねんけど、それやったらそのタイミングで今の家払ってしまったほうが節約になるなって話やねんけど…」


「この自転車どうする???ってなった訳っすね(笑)」


「そうやねん。」

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抜け殻の内側 @OshioAoi

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