タオルケットマジックアワー
エリー.ファー
タオルケットマジックアワー
この香りの中で死にたいと思った。
眠る前に抱えていた悩みを起きても持ち続けている。
私はこの悩みに恋をしてしまっているのかもしれない。
タオルの香りが好きだ。一生、寝ていられる。睡眠という行為が最も自分に合っている。つまり、死んでいる状態が最も適切だということなのだろう。
魔法のような時間が、奇跡のように連なって、今を作りだしている。
そう、タオルケット。
タオルケットマジックアワー。
まるで星々の中にいる実体をもたぬ人間のよう。
タオルケットマジックアワー。
このままずっと。いつまでも。飽きるまで。いや、飽きてもずっと。
一人が好きなわけではないけれど。
一人で居続けるしか道がないから。
一人であることを認めたくないけれど。
一人である限りは不幸はないから。
寂しい時間が私に生きているという実感を与えてくれるから。
これは、自傷。
それとも自称の延長。
分からない。
でも、とにかく眠い。
瞼を愛している。
何も見えなくなることが、恋しくてたまらない。
どんな人よりも、明日が来ないことを望んでいる。
今日だけは、どうか、今日だけは。
今日だけでいて下さい。
そして、もしも明日が来てしまうなら。
どうか、明日だけは、頼むから明日だけは。
明日だけにして下さい。
お願いします。
カレンダー。時間。空間。常識。社会。
私のことを見逃して下さい。
一生のお願いを数えきれないほど使ってきた私からチャンスを奪って下さい。どこかの誰かが私に期待をしても、私が動けないような状況にして下さい。私を追い込んで、私を覆って、二度と見つからないようにして下さい。
もしも、その時に、偶然。
私のことを殺してしまったら。
墓も作らずに、死体を海に捨てて下さい。
できれば満月の夜でお願いします。
意味は、ありません。
ただ、何となくお洒落なので。
私からは、最も遠い光景なので。
私には、もう何も残っていないので。
前向きでいなければならない世界に疲れて、無意味に後ろ向きに生きて居心地の良さを得てしまったので。
きっと。
そういう罰なので。
お願いします。
ミスタータオルケットマジックアワー。
あなたがたとえ、神様でも。
ミスタータオルケットマジックアワー。
あなたがたとえ、悪魔でも。
ミスタータオルケットマジックアワー。
あなたたとえ、私でも。
救って下さい。包んで下さい。吸い込んで下さい。
たとえ、あなたが私を嫌いでも、私はあなたが好きです。
ジャズを聞きながら眠りたいのですが、贅沢は言いません。頭の中でボサノバをかけて、眠ることにします。
身を任せるために、私はあなたを信頼することにしました。
だから。
お願いです。
裏切らないで下さい。
この朝を遠ざけて下さい。
私に安心できる夜を与えて下さい。
願いを込めて。
心から願いを込めて。
何もかも捧げながら眠りたいのです。
愛を、どうか。
私のためだけに。
香りは離れていき、そして戻ってきた。
私の体からも発せられる癒しは、誰かの孤独に寄り添うことだろう。
おやすみなさい、と聞こえる。
おはよう、と聞こえたが忘れることにした。
求められる限りは考えなくて済む。
求められなくなってからは考えれば済む。
タオルケットマジックアワー エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます