第2話 宣戦布告

月のすぐ近くの重力安定宙域、宙域ネーム『ニアームーン』は比較的、日本が力を入れているエリアだった。


ニアームーンには大型のコロニーが15個存在しており、戦力も各コロニー群の中で最高峰であった。


艦隊陣容は大型宇宙戦艦『大和』を始めとした大艦巨砲主義に基づくものであった。


大和は全長300メートル、核融合炉エンジンを搭載し、全方位をカバーするように配置された46センチ連装砲を4基装備している。


艦底部には大型ミサイル発射管が搭載されている。


そして彼らは月の上に位置していることから『月上艦隊』と呼ばれた。


そんなニアームーンの最外縁にいた哨戒艦から緊急通信が入った。


『こちら哨戒艦、いかずち。所属コロニー不明の大型艦多数接近!領宙侵犯を認めます!』


ニアームーン艦隊司令部の大半は宇宙海賊と断定していた。


「了解した。哨戒艦に全武装使用許可を出せ。増援で司令部直属の重装駆逐艦を5隻派遣しろ。」


そう命令した直後であった。


『こちらは宙域ネーム、『グリフィン』直属宇宙艦隊である。我々、グリフィンはニアームーンに対し宣戦布告をする!』


それはあまりに突然であった。 


グリフィンはアメリカと深い関係にあり、ニアームーンともかなり近い距離であった。


その近さ故に、たびたび衝突は起きていたが、それがこのような形となってしまうとは夢にも思っていなかった。


そして、宣言の後すぐに、いかづちは大量の砲弾とミサイルの雨を浴びた。


爆発により、周囲は明るく照らされ、敵艦隊はその姿を一瞬露見させた。


「司令!敵艦隊戦力は戦艦級20、巡洋艦級50、駆逐艦級は測定不能。これは、グリフィンだけの戦力ではあり得ません!」


「増援の駆逐艦が攻撃を開始!」


ニアームーンの重装駆逐艦が長射程の亜音速対艦ミサイルを放つ。


しかし、レーザー対空射撃により、そのすべてが撃墜された。


その応酬と言わんばかりの攻撃が重装駆逐艦を襲った。


ミサイルが次々と装甲は貪り食っていく。


そして宣戦布告から僅かに5分の間に哨戒艦と重装駆逐艦は全滅してしまった。


「やむを得んな、虎の子の月上艦隊を全艦出撃させろ!」


その命令はすぐに月上艦隊基地に告げられた。


『全艦緊急発進!全艦緊急発進!これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない!』


大和と旗艦とした月上艦隊は戦艦40隻、巡洋艦20隻の砲戦艦隊であった。


発進後、しばらくして彼らはレーダーにグリフィンの艦隊を捕捉した。


それは2列からなる直線の陣形を取っていた。


呼応するように月上艦隊も同航戦となるように布陣した。


艦隊が互いに布陣し切った途端、ほぼ同時に海戦の火蓋が切って落とされた。


月上艦隊の砲戦火力は凄まじいものであった。


大口径の主砲弾が次々とグリフィン艦隊へ殺到する。


宇宙船は基本、エンジンを殺られなければ沈むことこそなかったが、狙われたら最後である。


月上艦隊は次々にエンジンを狙って砲撃していった。


グリフィン艦隊も応射しようと必死にはなっていたが、射程距離の問題が発生し、戦列がバラバラになっていった。


戦局は月上艦隊が圧倒的有利な盤面であった。


しかし、月上艦隊司令は不審に思うところがあった。


それは、なぜ敵艦隊の射程が不揃いなのにも関わらず、同航戦を仕掛け、それも不利な射程を選んだのか、と。


その答えはすぐにわかった。


「艦長!レーダーに感あり、本艦の直下!」


レーダーに補足すると同時に大和の艦底部に大きな衝撃が起こった。


「何事だ!」


「これは、宙間戦闘機!爆装した宙間戦闘機です!」


宙間戦闘機とは、主にパトロール用のものである。


機体のベースは地球でも使われているものだがエンジンやコックピットを宇宙用に改装したものだ。


それが爆装をして攻撃を仕掛けてきたのだ。


残念ながら、月上艦隊には対空砲こそあれども対ミサイル用であって、戦闘機には効果がないのだ。


宙間戦闘機は反撃ができない月上艦隊を次々と撃沈させていく。


「武蔵、被弾!艦隊から落伍していきます!」


「巡洋艦隊の被害甚大!戦線を離脱し始めています!一部の戦艦からも退艦命令が出ている模様!」


次々と悲痛な内容のみが耳に入ってくる。


そして、最後の命令をを艦隊司令は迫られた。


「月上艦隊各艦に通達。現時刻をもって撤退、離脱を開始せよ。大和はこの場に残りしんがりを務める!」


その命令が下される前から一部は撤退していたがその命令後、我先にと他艦は撤退していった。


そして、戦場には大和ただ一隻のみが戦闘していた。


艦のあらゆる箇所が炎上しながらもグリフィン艦隊の戦列に攻撃を何度も仕掛けていき、爆散する前に5隻の艦艇を道連れにしていった。


その様は、大艦巨砲主義の終焉を告げるようなものであった。


こうして、戦争が始まった。

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バトル・オブ・シャドウ トンカッチ @tonkacchi7808

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