最終話 届け、もっと多くの人へ
「おーい凛。ちょっと見てくれよこれ」
「……ん? どうした親友。何かあった?」
「いやこれこれ。この
「いや、なんでも、ないよ。うん」
あれから少しの準備期間を経て、俺と恋歌さんは覆面ユニット『NIKKARIN』として、曲を作って動画を投稿した。
その結果は……、即興演奏に興味のなかったこいつに名前が知られてるあたり察してもらえると思うけど、結構上々だ。
そう思うとどこか嬉しくて、笑みが溢れる。やばい。どうしたって隠せなさそうだ。流石に不審に思われるわけにもいかないから、無理やりぼかして誤魔化す。
「……まぁ、知ってるよ。最近伸びてきてるユニットでしょ。でも意外だな。君、俺が話した時はそんなに即興に興味持ってなかったってのに、どういう風の吹き回し?」
「いや、確かにお前に言われた時にはよくわかんなかったけどさ、このユニットの演奏聴いていい意味で考え変わったんだよ。確かに音にまとまりはねぇんだけど、それが逆に自由っ! て感じがしたというか……」
うまく考えがまとまっていないのだろう。でも、良いと思ってくれたみたいだ。目の前の親友はうーん、と唸りながら自分なりの言葉で説明してくれる。
なんか、嬉しいな。自分の好きなものがこうして誰かに届く。それが大勢でなくて、こんな身近な人でさえも届いてくれたという事実。それが、たまらなく嬉しい。
「ん、だろ? 今言ってくれたことそれこそが、俺が即興に感じてる魅力でさ。それが分かってくれただけでも嬉しいよ」
「そーかい。ま、やってみよう、とは思わんけどさ。お前が即興ってジャンルにのめり込むのもわかる気がするわ。このユニット、すげー楽しそうに演奏してっからさ」
「あっはは。そっか。じゃあその人達も俺と同じタイプの人達みたいだね」
そして、俺の演奏がこいつの心をここまで動かせたという事実。それもまた、彼女とユニットを組んで良かったと思えることの一つだ。
もしかしたらこいつ以外にも、俺たちの演奏で心動いた人がいるのかな? ふと、そんなことを考える。そうだとするとすごく嬉しい。
「かもな……。ってか、お前はこんな風に動画投稿とかする気はねぇの? こんだけ盛り上がってんだし、お前と同じような人たちって多分いるぞ。繋がれるチャンスだと思うんだけど」
「ん? あー、それね。それは……」
……参ったな。どう誤魔化そうか。身近な人にはなるべくこのことは知られたくない。
そう思ってふと、スマホを見やると、一つメッセージが入っていた。
差出人は、恋歌さんだ。
『今日の放課後、スタジオに集合ね! マネージャーさんが一緒に今度の動画で撮る即興のモチーフ決めたいって! 遅れたら針千本、だよ!!』
ワクワク、というスタンプとともに、そんな言葉が綴られていた。
あぁ、そっか。彼女も俺とおんなじ気持ちなんだ。そう思うとふと、浮かんできたものがあった。
「……別に、大丈夫だよ。俺と同じ類の人がいたってことが分れば、俺はそれで十分さ」
「はーん。そういうもんなのかね?」
「うん。少なくとも俺は」
そう。それだけで幸せだ。
一緒に音を合わせて、同じ気持ちで弾ける、そんな相棒みたいな相手がいるだけで、俺は幸せ。
でも、これからは彼女と一緒に。
もっと多くの人に俺たちの音を届けたい。
『届け、もっと多くの人へ。日本中……、いや、世界中に』
そう、爽やかな風に乗せるように、心の中で呟いた。
即興でロックが弾きたいです! 二郎マコト @ziromakoto
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