第172話
◆
今日は転校生達の歓迎会をするから遅くなるとは聞いていた。
心配になって20時ごろから合間を見て何度かメッセージを送ってみたけれど既読も付かないし、電話をしても電源が切れているか圏外にずっといるのか何回かかけているけど繋がらない。
そして、もう22時を過ぎていて高校生が外を出歩いて良い時間は過ぎている。
いくらなんでもおかしいと思って
「もしもし美波!冬樹くんが帰ってこないのだけど歓迎会は終わっているのよね?」
『ええ!?冬樹、家に帰ってないの?
歓迎会は7時過ぎに終わってその場で解散して冬樹も帰っていったよ』
「そうなのね。いくらなんでも遅いと思って美波に電話させてもらったのだけど、遅すぎたみたいね」
『そうだよ。高校生なんだからそんな遅くまでカラオケ店に居られないよ』
「そうよね。悪いけど、
私は今から冬樹くんを探しに行くから」
『ちょっと待って!』
「何?今言った通り冬樹くんを探しに行かないといけないから」
『だから、冬樹の居るところに当てはあるの?
それに警察に連絡してもらう?』
「そうね。警察には連絡してもらってちょうだい。
当てはないから駅まで行ってみる」
『わかった。小母さんにお願いするね。
あと冬樹と別れたのは学校の最寄り駅だよ』
「ありがとう。それとよろしくね」
『うん、わかった。お姉ちゃんも夜遅いんだし気を付けてね』
「うん、気を付けるね」
冬樹くんを探すために周囲を見渡しながら駅まで向かって歩いていると12月の金曜日の夜ということもあり普段よりもお酒を飲んでいる人が多く、中には嫌らしい目線を向けてくる男性も居る。
駅も近いし
何事もなく駅までたどり着いたけど、冬樹くんについても何の収穫もなかった。もう一度冬樹くんのスマホに電話をしてみるけどまだ電波が繋がらない状態のままだ。
次は美波に電話をすることにした。
『もしもし、美晴ちゃん?
美波ちゃんに電話を代わってもらったの』
「小母様、すみません。私がもっと早く気付いていれば」
『何言ってるの。連絡もせず行方不明になってる冬樹が悪いに決まってるでしょ。
それより今うちの
忘年会シーズンだし女の子がひとりで歩いてたら酔っ払いに絡まれちゃうでしょ。
冬樹を心配してくれるのは嬉しいけど、美晴ちゃんに何かあったら
「でも・・・」
『いいから、何かわかったら真夜中でも連絡してあげるから夜が明けるまでは家に居てちょうだい』
「わかりました・・・」
小母様の言う通り当てもなく夜出回ることの方が危険だという当たり前のことに立ち返って今日のところは家へ帰ることにした。
「そこのおじょうちゃ~ん。俺らと一緒に飲まな~い」
帰り道、同い年くらいの男性3人組から声を掛けられてしまった。
「いいえ、お酒は飲めませんのでお断りします!」
「まぁまぁ、そう言わないでさー」
幼く見える容姿なのでいつものように未成年を装って乗り切ろうとしたものの、手首を掴まれ3人に囲まれてしまって逃げそびれてしまった。それと深酒をしているのか息が酒臭い。
「あれ?良く見たらこの
「ほんとだ。ねぇねぇ俺らとイイコトしようぜ?」
「いやっ!手を離してください!」
抵抗しようにも手首を強く掴まれてて逃げ出すこともできないし、3人に囲まれていて恐怖心が起き足が竦んでしまっている。
「別に、いじめようってわけじゃないんだよ。
お互いに気持ちよくなろうぜって提案してるだけなんだから良いよね?」
「よく・・・ない・・・」
「おい!その
この通り
すぐに警察が来るからな!」
どこかの学校指定のものと思われるジャージを着た男の子が
「ありが」
「中学生?こんな時間に出歩いたらダメだろ!」
「あの、ありがとう。それと、こう見えても私は成人してるんだ」
「え?ご、ごめんなさい!」
「謝らないで。助けてくれたんだし、ほんと怖かったから嬉しかった。
それと、警察に電話したんだよね?
説明しないとダメだよね?」
「ああ、これは大丈夫です。
機転の効かせ方もよい利発な子みたいだ。
「そうなんだ。そんな動画があるんだね」
「はい、まさか使うことになるとは思いませんでしたけど役に立てて良かったです」
「それはそうと、君こそ高校生に見えるけど、こんな時間に出歩いてたらダメじゃない?」
「そうですよね。今日は学校の友達と遊んでて帰りが遅くなったから・・・
東京へ出てきて生まれて初めてクラスメイトと遊んだので楽しくなって、二次会にも参加して遅くなっちゃって、それでも日課のトレーニングをしておきたくて、明日は休みだし遅くなっても良いかなと・・・」
「そうなんだ、最近東京へ越してきたの?」
「はい、今週北海道から引っ越してきました」
「そっか、そのジャージの学校に見覚えがないと思った。北海道の学校のもの?」
「はい、転校前の学校のものです」
「っと、引き止めちゃってごめんね。さっきは本当にありがとう、それじゃあ」
「ちょっと待ってください!
心配なので家まで送らせてください」
「すぐそこだし、大丈夫だよ」
「すぐなら尚更です!」
結局、この親切な高校生にマンションのエントランスまで送ってもらった。
◆
今日は学校で歓迎会をしてもらえて、楽しい気分でいたので解散した後に希望者だけで集まった二次会に参加していた。
ローランと
俺が一番魅力的に思っている
不快な気持ちになったし知れて良かったとは思わないけど、転校してくる前に学校で起こっていた事件について断片的に触れさせられたことで、クラスにある妙な緊張感の正体については察することができた。
そんな不快だった二次会から帰宅し、モヤモヤした気持ちを発散したい気分にもなっていたので・・・本来ならもう高校生が出歩いて良い時間ではないけど・・・日課のジョギングをしていたら女子中学生が酔っ払いの男たちに絡まれていたので割って入って追い払った。
その女子中学生と思っていた女性は既に成人しているということで、失礼なことを言ってしまったけれどそれを気にすることもなくむしろちゃんと感謝をしてくれる素敵な女性だった。
春華さんもすごく素敵だけれど、その春華さん以上に素敵な笑顔で別れてから名前を聞かなかったことを後悔した。
でも、住んでいる場所はわかったのでジョギングのコースにあのマンションの前の道を入れることにした。
◆神坂冬樹 視点◆
梅田さん達の歓迎会で思いのほか疲労が溜まってしまったらしい。
最近は調子が良かったので意識しなくなっていたけれど、他人の悪意に触れると疲れてしまいやすい状況は変わっていないようで今日は完全に油断していた。
表面的には友好的に振る舞っていてもやはり仄暗い部分はある様で、ローラン君達と一緒にいることが多いハルや美波への嫉妬からか陰口を言うものがいて何度となく聞こえてきた・・・とは言え、ハルや美波を守ることを考えたら不参加はあり得なかったので参加したことには後悔はない。
そんな精神をすり減らす環境に居続けたせいか、ハル達と別れひとりで電車に乗り座席へ座った瞬間意識を失ってしまった。
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