第125話

神坂冬樹かみさかふゆき 視点◆


特別教室への登校する件はトントン拍子に進み、スポーツの日の祝日を含んだ3連休明けから復帰することになった。


病院の医師せんせいから『家族とビデオチャットや会って話すことで良い方向へ進んでいるので大丈夫だろうと思うけれども、過信はしないように』という注意をされたけれど、そんなに心配をしている様子がなかったのもあり、ギリギリまで引き止めるような事を言っていた美晴みはるさんも納得してくれた。


僕の心の心配もさることながら、僕が他の女子生徒に目が行って別れ話をされるのではないかという危機感を抱いているみたいで、複雑にもなる・・・昼も夜も言葉と行動で僕が美晴さんを想う気持ちを全力で表現していると思うのだけど・・・




特別教室は1限の授業が始まる時間に登校し、休憩時間もずらしていき昼休みを午前最後の4限の授業中に前倒しして取って、午後も通常のクラスが帰りのSHRを開始する少し前に終わるように予定されていて、他の生徒と接触しにくいように配慮されている。


基本的には空いている先生が交代で様子を見にきてくれる事になっているものの、主担当に高梨たかなし先生が、副担当に新任の巳神みかみ先生が付いてくれる事になっているらしい。特別教室に入る女子生徒の事情が事情なので女性で温和な高梨先生と同じく女性で年が近い巳神先生が担当になるのは学校側の配慮を感じさせるものだと思う。



先日引っ越ししてしまったため高梨先生と顔を合わせる機会は減ってしまっていたし、また頻繁に会える様になるというのは嬉しい。


もう学校へは行かないと思っていたけど、いざ行くとなると楽しみになっている。




◆高梨百合恵ゆりえ 視点◆


冬樹君や岸元きしもとさんのために特別教室を用意することになった。


発端は冬樹君のお姉さんで生徒会長の夏菜かなさんが校長先生へ掛け合って了承を得て、それを冬樹君や岸元さんへ提案して彼らが受け入れたためだけど、高校生なのに校長先生と交渉をして実現させる夏菜さんの行動力と胆力はわたしには無いもので尊敬する。


その特別教室の主担当として白羽の矢が立ったのがわたしなのだけど、冬樹君との関係や岸元さんなど一学期に事件の被害にあった生徒の性質を考えると自然な流れのように思う。また、わたしの補佐的な副担当として巳神みかみ先生が付いてくれることになったけど、これも女子生徒の相談に乗りやすい年齢が近い同性が良いという配慮だと思う。


それ以外にもスクールカウンセラーにも定期的に来てもらって対応するとのことなので、わたしとしても心強い体制になっている。


今までなかった特別教室の担当は単純に負担が増えることにはなるけど、気掛かりな冬樹君たちの支援で関われるのはむしろ歓迎するところ。とは言え、同じく負担が増えるだけの巳神先生がどう思っているのかは心配だったけど、新任の若さからか『生徒のためになれることを誇らしく思いますし、良い経験になると思っています』と前向きに捉えているようでその点もホッとしている。



特別教室は冬樹君と岸元さんの他に同じく一学期に事件に巻き込まれていた仲村なかむらさんと芳川よしかわさんにも声を掛けていて、ふたりとも初日は登校してみるという返答をもらっている。


仲村さんは受験生で、芳川さんはずっと引き籠もっていたのでそれぞれ心配だし、継続できるかはわからないものの顔を見られるのは良かったと思う。




◆岸元美波みなみ 視点◆


いよいよ特別教室で学校への復帰をするという直前のスポーツの日に二之宮にのみやさんから会いたいと連絡をもらい、悩んだものの会うことにした。


繁華街のある駅の改札を出てすぐの待ち合わせ場所に近付いたら、周囲の通行人の視線の多くがまさに待ち合わせた場所の方を見ている居心地の悪さを感じながらも近づくと、待ち合わせていた相手である二之宮凪沙なぎさその人が視線を集めていた。



「お待たせ。視線を集めているからなんだろうと思ったら、その頭を見て納得したよ」



「お久しぶりです。別に視線を集めるつもりはなかったのですけど、償いと決意を表そうとしたらこうなってしまいました」



「二之宮さんは美人だから坊主頭でも様になるけど、予告もなく見たら迫力があってびっくりしたよ」



「驚かせてしまったのは申し訳ないです。それと、もう知っていると思いますけど・・・

 この件はこの場で言うことではないですね・・・」




この後ふたりでボックス席で周囲の目が気になりにくい喫茶店へ移動して話をした。



「改めて、今日はわざわざ私のために時間を使ってくれてありがとうございます。

 もう知らされていることですけど、隆史たかし・・・と言うよりはサッカー部たちがあなたにした事のそもそもの原因は私にありました。

 その事を改めて謝罪をさせてください」



「うん・・・まぁ・・・あの事は一生許せないと思うし、その大元が二之宮さんだって言うのは聞いて腹立たしくも思ったけど、二之宮さんが直接指示したわけではなくて、増長?暴走?したサッカー部に付け入られたわけだと言うし、それはいいよ。

 春華はるかちゃんや夏菜お姉ちゃんに散々言われたけど、あっさり鷺ノ宮さぎのみや君と付き合ったわたしの落ち度でもあるし・・・」


怒りがないわけではなかったけど、今日の二之宮さんの様子を見ていたらその気持ちは霧散して、むしろ最近の良かったところを思い出していた。



「そうは言っても・・・」



「二之宮さんは反省しているんでしょ?」



「それは・・・してますけど、だからと言って・・・」



「もういいよ。二之宮さんはわたしの事が好きじゃないかも知れないけど、わたしは二之宮さんのことがけっこう好きだからさ、あんまり恨む気にもなれないんだよね。

 だから、謝ってもらったしもうこれ以上はいいよ。

 それより、改めて仲良くしようよ」



「岸元さん・・・いいのですか?」



「良いと言うか、仲良くしたいのはわたしの方なんだけど?」



「私で良ければ仲良くしてください」



「うん、改めてよろしくね、さん。

 ただ、冬樹は譲らないけど・・・っていうか、お姉ちゃんと付き合ってるからわたしも長期戦なんだけどね」

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