第126話
◆
特別教室への登校初日がやってきた。
「おはよう、冬樹。せっかくだから一緒に登校しない?」
「おはよう。わざわざ待ってたの?
まぁ、良いか。みゆきさんも良いですよね?」
「え、私?
そうね。もちろん良いわよ。妹ちゃんもわざわざ待っててくれたんだし」
そう言いながらみゆきさんは意味ありげに美晴さんの方を向いて話をするように促した。
「も、もちろん、私も良いわよ。ここで美波だけ除け者にしたら性格が悪いじゃない」
「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします。
お姉ちゃんもよろしくね」
「ええ」
学校の校門が見えたところで、美晴さん達はこれ以上近くへ行って生徒に見られたら変に思われるかもしれないと気を使ってくれて、そこでエールを送ってもらってから別れた。
「いよいよね」
「そうだね。改めてよろしく、美波」
「こちらこそ、よろしくね」
既にSHRが始まっている時間で遅刻になるため生徒の姿は見えない中、ふたりで特別教室まで移動した。
特別教室に指定された教室へ入ると既に
「「おはようございます」」
タイミングを合わせたわけではないけど、僕と美波で同時に挨拶を発していた。
やっぱり、こういう間合いは合いやすいんだよね、僕たちは。
「あ、おはようございます。
良かった、ふたりもちゃんと登校できましたね」
「はい、問題なくここまで来れました」
「わたしも大丈夫でした」
「それは良かったのですけど、
巳神先生が居たので予想はできていたけど、
具体的な説明はあとで高梨先生からされるからとのことで、取り急ぎの簡単な説明を巳神先生からしてもらった。
基本的には自習で、特に先生に質問をしたい教科の希望を言えば空いている先生が来て質問の受け答えをしてくれるのと、できる限り女性の先生が1人以上教室にいる様にするとのことだった。これは美波たち女子生徒への配慮で、質問を受け答えするのも原則的には女性の先生が行うようにしてくれるということだ。
厳密に休憩時間を定めないけど、トイレなど教室を出るのは他の生徒と鉢合わせしないように授業時間にしても良い・・・むしろ推奨するという話だった。
また、特別教室を行っていることは一般の生徒には公表しておらず、生徒で知っているのは
余談で、巳神先生は英語の担当なので英語は積極的に質問して欲しいとアピールしてきた。
2限と3限の間の休憩時間になると特別教室に姉さんがやってきた。
「仲村さん、冬樹、美波、調子はどうだ?」
「教室という環境や先生に質問ができるから勉強は捗るし、受験が近くて焦っていたけど助かってるよ。
校長先生に掛け合ってまで実現してくれた神坂さんには感謝しているよ」
「礼には及ばないよ。言っては悪いが、そこにいる弟と妹分のためにやった様なもので、仲村さんはついでだ」
「それでも感謝させてよ。部活仲間に顔向けできない気持ちがあったし、動画が流出して影で何を言われているのかもわかっているから教室へ行くのが怖くて学校へ来られなかったけど、こうやって登校することで卒業までの目処が立ったし、受験勉強も先生に教えてもらえるから助かっているし、神坂様だよ」
「まぁ、仲村さんにとって良い環境を作れたのは生徒会長としての仕事ができたということで、良かったと思うことにさせてもらうよ。
冬樹と美波はどうだ?」
「うん、やっぱり先生に教えてもらえているし、僕も助かっているよ。他の生徒と会わずに済んでいるからか、今のところは気分の問題もないよ」
「わたしもだよ、
「そうか、ふたりの助けになれたのなら良かったよ。
芳川さんは・・・来てないのか?」
「混んでいる電車に乗れなくて様子見しているらしいよ」
「そうか・・・」
そんなやり取りをしていたら高梨先生が入ってきた。
「ごめんなさい。2限まで授業が有ったから・・・
あら、夏菜さんも来ていたのね」
「はい、様子が気になって見に来てしまいました。
そろそろ次の授業になるので私はこれで失礼します」
「気にかけてくれて、と言うかそもそも校長先生に掛け合って実現してくれて感謝しているわ。
また、様子を見に来てくださいね」
「はい、それでは」
姉さんを見送った先生は僕たちの方へ向き直した。
「それでは、改めてこの特別教室の主担当となりました高梨です。よろしくお願いします。
既に巳神先生から説明をしてもらっているところもあると思いますが、改めて説明しますね・・・」
◆
冬樹くんと学校まで行き校舎へ入っていくのを見届けた後、大学へ向かって移動を開始したら
電車の中というのもあり話を切り出しにくそうだったので、大学に着いてから30分くらいは時間に余裕が持てるのでそこで落ち着けてから話をしようということになった。
そして、大学へ着いてまだ早い時間のため
「あのさ、私は仕事をしながら一人暮らしの準備をするって言ってたじゃない?」
「そうですね。もしかして、目処が立ちましたか?」
「いや・・・逆に目処が消えたと言うか・・・」
「何かトラブルでも起きたのですか?
それともご両親と何か有ったとか?」
「トラブルと言えばそう言えなくもないけど・・・想定外のことが起きているのは間違いないわね」
話をしていて歯切れの悪い赤堀さんの様子からひとつの可能性に至った・・・それはあって欲しくないことではあるけど、目を背けていれば解決する話でもないので、話を促すことにした。
「何にしても、赤堀さん・・・みゆきさんとは短い期間ですけれど1ヶ月以上寝食を共にしている仲ですし、姉の様に思わせてもらっています。
何を言われても受け止めますし、協力できるを事は協力させてもらいますから、今みゆきさんに起こっている事を仰ってもらえませんか?」
「・・・うん、ありがとう・・・それでね、私・・・妊娠したみたいなの」
「病院へは行かれたのですか?」
「ううん、まだ。アレが来ないから・・・私は乱れやすいから最近色々あったしそのせいで遅れているのかなって思っていたのだけど、念のため検査薬で確認したら・・・陽性だったの」
「そうですか・・・その・・・相手は・・・」
「冬樹で間違いないわ・・・私は生まれてこの方あの日の1回しかシていないもの」
「そうですか・・・でも、そうなるとまずは病院へ行かないといけませんよね。
それと、冬樹くんにどうやって伝えるかも考えないといけないですし」
「そうね・・・そうよね・・・」
不測の事態にみゆきさんは大変混乱している様子だけれど、私も平静を装いつつも内心ではものすごく混乱していた。
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