第124話
◆
約束を果たすつもりがあるのか自分の行ったことを警察や学校などへ自供したようで、
とは言え、女の子を辱めることに加担していたことは事実なので、その事の責任を負わなければならないのは変わらない。
ただ、一番の被害者である
これからはアルバイトをしながら勉強をして国立大学へ進学するつもりだという。
また、いつもおしゃれにセットしていた髪は更生施設を出ても坊主のままにしていて、ずっと見ているとなんだかおかしくなってくる。
骨折の方は全治2ヶ月位ということで、治療費の他に仕事をできない期間の分の休業補償を二之宮さんのご両親へ請求することになった。皮肉なことに、私が
これは
お金の件については仕方がないけど、学校での隆史への評価が二之宮さんに陥れられた可哀想な男子へ変わっているそうなので、ひとまずは良かったと思うことにしている。
そして、10月に入っていすぐ二之宮さんとの約束を果たす日が来た。
「今日はご足労いただきありがとうございます。
神坂さん達にとっては何のメリットもないのにわざわざ出向かせてしまって申し訳ありません」
「いえ、いいですよ。那奈さんが二之宮に自供させたようなものですし、その那奈さんを嘘つきにするわけにはいかないですよ。
それと怪我の方は大丈夫なのですか?
まだ痛々しく見えますけど・・・」
「そうですね。もうすぐギプスを外せるみたいですけど痛みはまだありますし、見ての通り不自由ですね。
でも、事態を大きく変えたので悪くなかったように思っています」
「それはコメントしづらいですね・・・」
「ふふ、ごめんなさいね」
◆二之宮
事の顛末を学校と警察に話してから、状況は大きく変わった。当たり前の話で、被害者として扱われていたのに
学校は自主退学で正式にやめることになり、また冬樹や岸元さん達の家から両親宛に損害賠償請求が行われて相当な金額の請求をされているらしく、当然私に原因がありその証拠も十分にあるので裁判で争うのではなく示談で減額のお願いをすることになっているらしい。原因ではあるけど、請求先は両親なので具体的な話は聞かせてもらえていない。
そんな状況なので特に父親はずっといつもとは比較にならないほど機嫌が悪く、私が話をしていないため聞くタイミングがない・・・仮に話したとしても恨み言を言われるだけで恐らくお金の話はしないだろうし、もししたとしてもその金額が引き金でどんな叱責を受けるかわからないので『触らぬ神に祟りなし』というのが実情になる。
父親からは私が18歳になったら絶縁し、それ以降は何があっても助けないし勝手にしろと言わた。それまではGPSで居場所を判るようにし、外出する時は行き先と用事の内容と帰宅時間を都度報告するようにと命じられている。
これは私を心配をしているわけではなく、これ以上余計な問題を増やされたくないのがわかる。父親はずっとそうだった。自分勝手で家族に無関心。自分さえ良ければいいから家族をないがしろにするのに、世間体は気にする。
今回の私の件で外面の良さを維持しきれなくなっている様だけど、それも別に興味はない。
そして、10月に入っていすぐ鷺ノ宮那奈さんが約束を果たしてくれる日が来た。
待ち合わせの喫茶店に入り店内を見渡すと那奈さんと、その反対側に二人分の背中が見える。冬樹と岸元
那奈さんに促されるままにテーブルへ近付き、振り向いて男性を見るとそこに座っているのは冬樹ではなかった・・・間違いなく神坂冬樹その人だけど、私が会いたかった冬樹ではなかった。
表情は憎しみや怒りの感情すら無い文字通りの無で無関心、隣に座っている美晴さんすらその表情に驚きを見せるほどの変わり様を見せていた。
「お久しぶりです、二之宮さん。
那奈さん、これで約束は果たしましたので僕たちはこれで帰らせていただきますね」
私が座るのすら待たずに淡々と最低限のノルマを果たしたと言わんがばかりに、席を立とうとする冬樹と美晴さんに対して慌てて声を掛けた。
「ちょっと、待ってください!
少しくらいお話できませんか!?」
「僕が二之宮さんと話したいことがあるはず無いじゃないですか?」
「あの、せめて謝罪だけでも言わ・・・」
「それも不要です。二度と近付かないでください。
僕が二之宮さんに望むのはそれだけです。
それじゃあ、美晴さん行きましょう」
それでも止まらずに出ていこうとするので、手首を掴んで引き止めた。
「あの、お願いですから話をさせてください!」
「・・・ふぅ。しょうがないですね。
じゃあ、二之宮さんが償いを終えたらその時は謝罪を聞きますよ」
表情が変わらず淡々と語る冬樹に焦りが増す。
「それはどうすれば!?」
「それは二之宮さんが自分で考えてください。
僕が『二之宮さんは償いを終えることができたんだな』と思えたら、その時こそはきちんと会って話をしてあげますよ。
それじゃあ、今度こそ帰りますね」
冬樹は私が手首を掴んでいた腕を軽く振り、私の手を払ってそのまま歩きだし、美晴さんも慌てて後を追って去っていった。
今ここに至り自分が付き合いたかったのは笑顔の冬樹であって、冬樹が側にいればどんな状況でも良かったわけではなかったことに気付いた。
きっと当たり前なのだろうけど、そんなことにも気付けないほどに愚かだった自分を振り返り、気付いた時には心の底から嫌いだった父親と精神の在り方がそっくりだということにも気付いて絶望した。
一瞬だったのか時間が経過していたのかも認識できない状況だったけど、那奈さんに促されるように先程まで冬樹たちが座っていた那奈さんの対面の席へ座った。
「私もね二之宮さんのことを憎んでいるのだけど、年長者として一言言わせてもらうと、ちゃんと償いを行えば神坂さんは赦してくれる心の広さを持っているから頑張ってくださいね」
絶望の中に一筋の光明を見た気がした。
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