第123話
◆
『校長先生と話をしたんだが、保健室登校みたいな形で学校へ行かないか?
学校としても一番の被害者である冬樹には最大限の配慮をしてくれるということだ。
近況を連絡するためのビデオチャットで姉さんと話していたら、最後に提案をされた。
「
たしかに冬樹くんは安定してきているけど、学校にはいろんな生徒がいるし、中には冬樹くんへ悪意を持って接する人もいると思うわ」
突然のことだったので思案に集中してしまい動かずにいたら隣に座っている
『美晴さんの心配もわかりますが、将来のことを考えると状況が好転している間に未来のための布石を打つのも必要なのではないかと思うのです』
「でも、早くないかしら?
それに
『たしかに転校も一つの選択肢です。
ただ、この時期の転校は受け入れ側の生徒の興味を引くでしょうし、ネットで情報が出回っている部分もあるので知られて悪意を向けられるリスクはあります。
そうでなくても冬樹は女子生徒から好意を持たれやすい容姿と性格ですし、それが原因で要らぬ敵意を持たれる可能性だってある。
それなら私や
「でもっ」
「美晴さん、大丈夫です。姉さんの言うことはもっともだと思います。
まぁ、僕が女子生徒に好意を持たれやすいと言うのは身内のひいきがある様に思いますけど」
「それは夏菜ちゃんが正しいと思うよ。私だって心配になるもん」
「ははっ、美晴さんは心配しないでも大丈夫ですよ。
僕は美晴さん以外は恋愛対象として見ないですから。
話の腰が折れちゃいましたけど、日本全国どこへ行ってもネットで一連の騒ぎを知っている人がいる可能性はあるし、しかも情報が中途半端で僕が悪いことをして逃げるように転校してきたと捉えかねられないというのは不安材料としてありますよね。
それなら僕が冤罪だったという顛末までちゃんと知られている秀優の方が良いと言うのはあると思います。
しかも、美晴さんが言ったんですよ、僕に秀優高校を卒業して欲しいって」
「それは言ったけど・・・ただ同じ学校の卒業生という繋がりが欲しいと思っただけで、冬樹くんを危険な目に遭わせてまで卒業して欲しいわけじゃないよ」
「まぁ、行ってみてダメだったらやっぱりやめるでも良いと思うのですよ。
それくらい柔軟に対応してもらえるんでしょ?姉さん?」
『そうだな。具体的な話はしていないが、学校側は冬樹への最大限の配慮を確約してくれているからそれくらいは対応してくれると思うぞ』
「なら、変に転校したりせず、秀優へ復帰してみますよ。
ダメならすぐにやめて、高卒認定で資格だけ持って大学受験に挑めば良いだけですし。
ただ、方向としてはそれで行きますけど、病院で
「冬樹くんがそう言うなら・・・」
『冬樹の考えはわかった。なら、学校や美波へは冬樹が前向きに検討しているので準備を進めるようにと言うが良いな?』
「うん、お願い。姉さんには悪いけど、よろしく頼むね」
『いや、これくらいは喜んでやらせてもらうよ。
むしろ、冤罪の時はお前を突き放すような態度を取ってしまったことを申し訳なく思っているし、これも償いだと思っている』
◆
夏菜お姉ちゃんから、冬樹が秀優高校へ復学するつもりで準備を進めるという話をされた。
復学とは言ってもクラスへ戻って以前の様に授業を受けるのではなくて、学校が冬樹のための特別教室を用意してくれて、そこへ通うようにするらしい。
ただ、冬樹の病気が悪化するなどの問題があるようならやめることも前提になっているという。
そして、わたしにもこの特別教室へ登校しないかというのが夏菜お姉ちゃんからされた提案だ。
もちろん冬樹と一緒に学校へ通えるのならとふたつ返事で了承し、お母さんにも了解をもらった。
また、わたし達の他には
わたしも同じ目に遭ったから仲村先輩たちへの配慮はわかるけど、冬樹と接することで冬樹の優しさに触れて好きになられたらイヤだなって気持ちもある。ただでさえお姉ちゃんという超強力なライバルと付き合い始めているのにこれ以上ライバルが増えるのは気が気でなくなってしまう。
何はともあれ、冬樹と学校へ行くのは楽しみだ。
◆岸元美晴 視点◆
夏菜ちゃんが冬樹くんを学校へ復帰させようとする意図は理解できる。
けど、付き合い始めた私からすると女子生徒がたくさんいる学校へ通って欲しくない気持ちも強い。
私が繋がりを欲しがって『形だけでも秀優高校を卒業してくれたらいいな』と言ってしまったことが、冬樹くんを学校へ行かせる決断を引き出したのだから皮肉もいいところだ。
それに美波とふたりきりになる時間が多くなりそうなのも不安材料になる。いくら拗れたとは言っても、冬樹くんが長年好きでいた相手なのは間違いないし、美波も改めて冬樹くんの魅力に気付いただろうから、巻き返しも考えているだろう・・・
さすがに無理やり私から奪うような事をする様な
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます