第122話

高梨百合恵たかなしゆりえ 視点◆


秋分の日からの3連休が明けた月曜日、二之宮にのみやさんから会って話をしたいという連絡を受け、その日の放課後に時間を作って会う約束をした。


二之宮さんから学外かつ他の人に聞かれない場所が良いという希望で、二之宮さんのお宅へお邪魔することとなった。



久しぶりに顔を合わせた二之宮さんは全く余裕がなさそうで心配になったけど、話を始めたらその内容でそれどころではなくなった。


冬樹ふゆき君から予想を聞かされてはいたけど、本人が大枠でそれを認めるような事を言ってくるとは思わなかった。


二之宮さんは図々しいと自覚をしているものの、ところどころ保身を求めているところもあり、でも人の気持ちなどはそんなものだろうとも思う。ましてや、高校生なのだからなおさらだ。



「まず、二之宮さんは早く嘘なく表沙汰にした方が良いと思います。

 理由はいくつかありますけど、一番は神坂かみさか君が二之宮さんのことを疑って調べているからです。

 ただ友達に聞いて回っているとかいう話ではなく、高校生がかけるとは思えないほどの金額を費やしています。

 その上、神坂君は頭が良いですからある程度情報が揃えば繋ぎ合わせて真実へたどり着くことも考えられます。

 マイナスへ傾いた印象をプラスへ転換するのは難しいですけど、早く誠意のある謝罪をする事がマイナスを減らす大前提です。

 嘘や誤魔化しで取り繕って形だけの謝罪をしても結局は悪印象が強くなるだけです」



「・・・わかりました・・・」



「わたしは、わたしを信頼して話してくれた二之宮さんを尊重してここでの話は他言しません。

 本当はダメなのかも知れませんけど、頼ってくれた二之宮さんを裏切るつもりはありません。

 迷いがあるなら考えてみて、また相談が必要なら時間は作ります。

 でも、さっきも言いました通り、神坂君は遠からず真実にたどり着くと思いますから、早い方が良いですよ」



教師としては問題の隠蔽はダメだと思う。でも、目の前の二之宮さんの余裕のない表情を見ていると変に表沙汰にしたら最悪の事態も起きかねないという恐怖心も有り、二之宮さんが自分から明らかにしてくれると期待して逃げてしまった。


自覚はあるけど、この甘さはどうしても拭いきれない。




◆神坂冬樹 視点◆


9月ももう終わろうという涼しさも感じられるようになったある日、二之宮が自供したという話を担任の塚田つかだ教諭から連絡を受けた。


掴んでいた情報とそこから予想していた内容から大きく外れることはなかった。


動機については黙秘しているということでわからないけど、美波みなみが言うには恐らく僕への偏愛があるのだろうとのこと。


2年になって初めて話すようになったというのにGW明けには例の事件を起こしていたわけで、どれだけ深く思われていたのか想像すらできない。


そして二之宮は自主退学をし、退学処分になっていた鷺ノ宮さぎのみやたちについては再調査するということらしい。


僕については復学しないかという打診があったけど、まだ保留にしてもらっている。美波も同様の打診をもらっているようだけど、僕が復学しないなら行きたくないと言っている。






それから1週間後、10月に入ってすぐに続報がもたらされた。


鷺ノ宮たちは大きく分けて積極的に悪事を行っていたメンバーと脅迫されたり付き合いで引き摺られてしぶしぶ悪事を行っていたメンバーとにり分けされたとのことで、鷺ノ宮は脅迫されていたため仕方なく加担していたという結論になったらしい。


結局は一緒に悪事を働いていたから退学は変わらないが、退学処分を撤回してから自主退学へ他の消極的だったメンバーとともに処理だけ変わったらしい。また、それらを受けて更生施設からは出て保護観察に切り替わっているらしい。


姉さんから聞いた話だと、生徒の間でもその話は広がっていて主犯で一番悪いヤツ扱いだった鷺ノ宮の評判も少しだけ回復したらしい・・・那奈ななさんも少しは報われたのかも知れない。


元凶である二之宮は保護観察になっているそうだ。




そして・・・姉さんから、ひとつの提案をされた。

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