第121話

二之宮凪沙にのみやなぎさ 視点◆


「あら、二之宮さん。2日連続でのお見舞いありがとうございます」



鷺ノ宮那奈さぎのみやななさんを訪ねると1人でいて、私に気付くと読んでいた本を閉じて声を掛けてくれた。



「あの・・・腕の様子はいかがでしょうか?

 本当に色々と申し訳ありません」



「当たった角度や力のかかり具合が悪かったから折れてしまいましたけど、綺麗に折れてたから治りが早いそうですよ」



「すみません・・・」



怪我の状況に触れられると言葉が出てこなくなり、最低限の謝罪を口にするのが精一杯だった。



「ついさっき母と祖母が帰ってしまったのでお飲み物の用意もできないですけど、勘弁してくださいね」



「はい、大丈夫です。お気遣いなく」



「そうだ。お菓子をいただいたのでした」



那奈さんはそう言うと高そうなお洒落な箱を取り出して差し出してくれた。



「これは少し前にお見舞いに来てくださった神坂かみさかさんからいただいたのですよ」



「神坂君が来てたんですか?」



「ええ。ちょうどやり取りをしていたので、そのついでにお話したら私を気遣って岸元きしもとさんとお越しくださったの」



言外に自分が冬樹ふゆきに見舞われるのは自然なことだと主張するように説明してきた。



「二之宮さん、あなたの状況はもう理解できたのではないかしら?」



声音は優しいお姉さんと言った感じではあるものの、そこに含まれる感情は良いものではないと感じさせる。


要は冬樹は少なくとも私の事を疑っている状況で、ともすれば確証を得ているかも知れない。そんな『共通の敵』と対峙する状況でなければ、加害者の身内とやり取りをするはずなどないし、私が冬樹との関係を構築したいと理解わかっているから自分の方が優位にあると那奈さんは振る舞えるのだろう。



「はい・・・わかります・・・」



「それで、昨日のお話ですけど、二之宮さんが私のお願いを聞いてくれるのなら、神坂さんと会える様に取り計らいますよ」



「ええ!?」



那奈さんの申し出の意図がわからないけど、願ってもないことであることには違いない。



隆史たかしの不当に付けられた汚名を返上してほしいの。

 もちろん、隆史が自身で行ったことまで全部をなかった事にできないのはわかっているけど、現状は違うでしょう?」



那奈さんの言う通りで、そもそも私が鈴木くん達を使ってやらせた事もあるし、現状の隆史が主犯というのは実態にそぐわない。更に言えば、仲村なかむら先輩や芳川よしかわさんや岸元きしもとさんへの加害はサッカー部の3年が中心だったらしいのにもかかわらず、それらの罪もまとめて背負わされているのも不当に相当することだと言える。


隆史の身内としてはそれを掴んでいたらどうにかしたいと思うのはわかる。


しかし、冬樹に会わせると確約できるほどの関係を築いている?


でも、お見舞いに来たという・・・


とは言え、このお菓子を持ってきたのが冬樹であるという証拠はない。



「ああ、私が神坂さんと会わせられるか疑問なんですね?

 じゃあ、岸元さんとのメッセージのやり取りを見せてあげますよ」



那奈さんはそう言いながらスマホを操作し、メッセージアプリで美晴みはるさんとのやり取りを見せてきた。


たしかに今日の昼頃の美晴さんとのやり取りで、冬樹と一緒に来院することや到着の見込み時間などが書かれている。


気になるところとしては『電話で話した件もあるので』と言う文言だけど、それだってメッセージだけでなく電話でもやり取りするほどの繋がりがあるという事に他ならない。



「わかりました。約束は守っていただけますよね?」



「もちろんです。更に言えば『考えた』けど『やめた』みたいな騙すような事は言いませんよ。

 必ず二之宮さんが神坂さんに会える様に約束します」




◆鷺ノ宮那奈 視点◆


二之宮さんは帰っていった。


突然の来訪だったから驚いたけど、やはり神坂さんに会いたい気持ちが強く形振なりふり構っていられない心境なのでしょうね。


神坂さんがもしかしたら有効かもしれないと用意してくれた、を使う機会が早く来て良かった。



『二之宮が僕に会えるように執り成して欲しいとまた言ってくるかも知れませんね。

 その時は那奈さんの要望を聞いたら僕に会わせると約束して良いですよ。

 例えば隆史君の汚名返上とか』






それはそれとして、二之宮さんを相手にするとどうしても憎さが出てきて刺々しく対応してしまうのは良くないわね。

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