第115話
◆
金曜が秋分の日で土日と繋がり3連休となる前日の木曜日、昨日に引き続き
図書館ではうるさくできないので、わからないところがあって質問し合う時にしか話さなかったけど、美波が一方的に僕や
一歩進んだところにある奥にある意図を読むのが苦手な印象だ。
今日も昼食の時間を後ろにずらして勉強し続け、14時過ぎになって図書館を出た。
またファミレスで他愛のない話をして過ごしているけど、本当に美波は楽しそうに笑っている様に見える。
僕の冤罪事件が起こる前に好きだった笑顔だ・・・厳密には少し違うけど、それでも懐かしい気持ちにもなる。
「ドリンクバー取ってくるね」
美波は席を立ってドリンクバーコーナーへ向かっていった。そんな美波を見ていると美晴さんから声を掛けられた。
「美波がどうかした?」
「いえ、今日は笑顔を良く見せているなと思って」
「たしかに機嫌が良さそうだよね」
「僕が一緒にいるのが良いのでしょうか?」
「そんな感じがするよね。やっぱり、美波は冬樹くんが一緒にいた方が良いのかも」
「とは言え、いつまでも一緒にいる訳にはいかないですし・・・」
◆
冬樹くんが美波を見る、いや見守るような視線はかつて私がずっと羨ましく思っていたそれで、美波への慕情が掘り起こされたのではないかという焦燥感が拭えない。
「それは何?
「え?何を言うんですか?もちろん美晴さんと付き合っているのに美波と付き合うわけにいかないというのはありますけど、もう子供じゃないのだからずっと一緒というわけにもいかないってことで・・・」
「そ、そうだよね。今の言い方、感じ悪かったよね。ごめんね」
「いえ、気にするような言い方じゃなかったですよ?」
「そう?それなら良かった」
どうしても長年冬樹くんが美波のことを好きでい続けていたことが頭から離れず、不安な気持ちが感情の制御を狂わせる。
冬樹くんはちゃんと私のことを好きでいてくれている・・・それを忘れちゃダメだ!
「あれ?冬樹とお姉ちゃん、なんか雰囲気悪くなってない?」
ドリンクバーから戻ってきた美波から不意に投げかけられた言葉が思いのほか心の奥に刺さった。
「そんな事ないわよ!」
「え?あ、うん、そうだよね。なんか変なこと言ってごめんね」
「いいえ、私こそなんかキツい言い方をしてしまってごめんなさい」
「わたし、気にしてないから大丈夫だよ。
それよりもさ、冬樹。せっかく一緒に勉強するんだったら復学しない?
やっぱり自分の力だけだと不安になるし、ちゃんと学校で勉強した方が良いと思うんだ」
「美波、それは性急よ。冬樹くんは病院にだってかかっているのだし、軽々に決めて良いことじゃないわ」
「でも、良くなっているんでしょ?
とりあえず、病院の
「それは・・・」
「美晴さん、僕のことを心配してくれるのは嬉しいですけど、美波が言うことも理があると思うんです。
やっぱり勉強を一人で続けるのは大変だし、学校へ行くのも選択肢としてはありかなと思います。
来週にでも
「たしかに、冬樹くんが言う通りよね。学校へ行けるのなら行った方が良いわよね・・・」
「そうですよ。それに、前に美晴さんが言ってたじゃないですか?
それはできるだけ実現したいんですよ」
たしかに言った。時期は違っても同じ学校の卒業生という繋がりが欲しかったから・・・でも、それはただの卒業生という肩書を欲しただけで、実際に学校へ行ってほしかったわけではない。
ずいぶん良くなったように見えるけどまだまだ心の問題は心配だし、今の冬樹くんが美波と学校へ行くとふたりの繋がりが強くなる・・・どんなに好意的になってきていると言っても、生徒の中には冬樹くんや美波に対して奇異の目で見てくる人もいるだろうし、それが表立って感じられるほどなら互いを庇いあって時間だけでなく気持ちも一緒になる事が多くなるだろう・・・
冬樹くんのことは信頼しているけど、それでもどうしても冬樹くんが美波をずっと好きで居続けたという事実は不安を掻き立ててしまう。
◆岸元美波 視点◆
冬樹が復学へ前向きな雰囲気なので、改めて誘ってみたら冬樹の感触は良い感じだけど、反面お姉ちゃんは反対みたいだ。
お姉ちゃんは心配性なところもあるから色々な可能性を考えてしまっているのかも知れないけど、やってみてダメならまた休めば良いだけだと思う。
それにしても、あまりにも心配し過ぎな感じがする・・・もしかして、わたしに冬樹を取られるかも知れないと思っている?
冬樹とお姉ちゃんはわたしから見た感じよりもまだ結び付きが弱いのかな?
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