第114話

神坂冬樹かみさかふゆき 視点◆


美波みなみと別れ、帰宅してから自室で学校に設置してある防犯カメラの映像を確認した。


姉さんやハルの状況は時々見ていたけど、自分のクラスは関係がなくなったと思って見ていなかったので久しぶりになる。


退学した鷺ノ宮さぎのみやたちの分だからか席そのものが減っているが、隅の方に3席の空席がある・・・僕と美波と二之宮にのみやの分なのだろう。


たしかに、事件の前、それ以降とも違う雰囲気で、全体的に沈んでいる雰囲気に感じるし、特に積極的に僕へ対して嫌がらせをしていた面々が針のむしろの様な状況になっている。


夏休み前と違い姉さんやハルや美波と一緒にいても体調が悪くならなくなっている今ならクラスメイトと一緒にいても大丈夫な様にも思うし、復学も一つの選択肢であると思う。


美晴みはるさんも同じ学校を卒業したという学歴を持って欲しいという様な事を言っていたし、そういう意味でも考えて良いかも知れない。




岸元きしもと美晴 視点◆


夏菜かなちゃんから聞かされていたから冬樹くんと美波へクラスメイトから言われたという事を伝えはしたけど、少し後悔している。


美波が意外なほど前向きであることと、冬樹くんも悪くないと思っていそうなことが引っ掛かる。


ただの予感めいたものでしかないけど、悪い事が起こるような気がしてならない。




◆二之宮凪沙なぎさ 視点◆


今日は岸元さんが冬樹と一緒に勉強をしていたのでどんな感じだったのかメッセージで問いかけたのだけど、ただ『良かったよ』というシンプルな返答で何度か質問の仕方を変えて問いかけてみたけど、身のある言葉はなかった。


昨日までの岸元さんは積極的に私に対して尋ねてきていたのにそんなこともなく、訊かれたから最低限のことを返しているだけと言った感じだ。


冬樹と会って余韻に浸りたくて他のことが疎かになっている様にも考えられるから判断はしかねるけど、この変化はなんとなく嫌な感じがする。




高梨百合恵たかなしゆりえ 視点◆


悠一ゆういちさんが一昨日実家から戻ってから雰囲気が変わっている。わたしが原因ではあるもののずっと悩んでいる感じがあったものがずいぶん薄らいでいるように感じられる。


実家で何かあったのは間違いないだろうけど、実家でそんな悩みを解消するような要素があるかと言うと思い浮かばない。


だいたいお義兄さんやお義姉さんの子供自慢でわたしとは受け方が違うけれども愉快な話にはならないと思うので、不気味さもある。




◆神坂夏菜 視点◆


美晴さんから、冬樹が美波と一緒に勉強をすると聞いていた。一番大きな思惑として、二之宮凪沙から悪い影響を受けている美波を二之宮凪沙から引き離すことが狙いだという。


その一番の目的については私も賛成だが、冬樹がそれで悪い影響を受けてしまわないかの心配はある。


そもそもの原因を作った私が思うのは御門違いである様にも思うものの、それでも弟の事が心配になるのは姉として当然のことだと思いたい。美波も物心が付いた時からの妹分であり、妹の春華はるかにとって大事な親友でもあるので悪影響を受けるような事は避けさせたいが、それでも私にとっては実の弟の方が大事だし、そこは間違えたくない。


情報共有のつもりで美晴さんに冬樹達のクラスメイトの大山おおやまさんからの話をしたが、それも裏目に出るかも知れない・・・そんな予感もあり、美波に問いかけることにしてみた。



「冬樹との勉強会はどうだった?」



「良かったよ。冬樹はわたしの事を考えてくれているみたいで嬉しかったし・・・

 そう言えば、お姉ちゃんから聞いたんだけど夏菜おねえちゃん、わたしのクラスメイトから『学校へ出てこないのか?』って聞かれたんだって?」



「そうか、良かったな。

 それと、お前のクラスメイトの大山さんが聞いてきたのは本当だ。

 春華とふたりで話を聞かせてもらった。

 お前たちが良いのならまた学校へ来て欲しいということだそうだ」



「そうなんだね。せっかく冬樹と同じクラスになれたのに滅茶苦茶になってしまったけど、まだ取り戻せるよね?」

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