第113話
◆
まだ約束の時間にはなっていないけど、待ち合わせ場所に着くと既に美波は来ていた。
「おはよう。待たせちゃった?」
「ううん。わたしも今さっき着いたところ」
「そう?それなら良かった。
それに僕から呼びかけたのに、図書館へ呼び出したりしてごめんね」
「いいよ、どこでも。冬樹が一緒に勉強してくれるっていうのが嬉しいよ!
お姉ちゃんも一緒とかすごく久しぶりだよね」
「そうね。私が大学進学して一人暮らしをする様になってからは一緒に勉強する事はなくなっていたしね」
「まぁ、立ち話はそれくらいにして図書館へ行こうよ」
挨拶もそこそこに移動を開始した。
「それにしても、何で急に勉強に誘ってくれたの?」
「姉さんと直接会って話をしても大丈夫になったし、ハルともビデオチャットで話してても普通にやり取りできるようになってきたし、美波ともちゃんと向き合いたいと思ったからだよ。
特に美波とは二之宮の件でも意見がぶつかってしまったしね」
「それね。冬樹は二之宮さんの事を疑っているのよね?」
「そうだね」
「どうして信じられないの?」
「最初は違和感だったのだけど、調べていくと怪しい話が出てきたからね。どうしても警戒してしまうね」
「そうなんだ・・・」
「美波はさ、信じやすい性格だから心配なんだよ」
「そうかなぁ?」
「そうだよ。例えば、二之宮にパパ活に誘われてない?」
「え?
そ、そんなことない・・・けど?
どうして?」
美波の反応・・・歯切れの悪さと言い、仕草も誤魔化す時のそれなので、たぶん誘われたんだと思う。
「そっか。まぁ、仮にこれから誘われるかもしれないから参考までに聞いて欲しいんだけど、自分や友達もやっているし言わなければわからないとか、身体を洗うから汚くないとか忌避感を無くすような事を言うと思うんだよね。
そして、その誘いに乗ったとするよね。
そうしたら、二之宮は美波がパパ活をしたって僕に証拠を見せてくる。誘ったのが誰であれ美波がしたという事実は覆らないから印象が悪くなるよね?」
「あのさ?やっぱりパパ活って良くないよね?」
「それはそうだよ。言い方が違うだけで売春だし、本気で付き合いたいと思う相手がそんな事をしていたら幻滅するよ」
「そ、そうだよね」
「まぁ、どうしてもそうしなければならない事情があるならしょうがないと思うけど、そんなのよほどのことだと思う。
気にしないって男もいるだろうけど、そんな事を気にしないほど惚れ込んでいるとか、倫理観が一般的じゃないかだよ
美波に限った話ではないけど、人って親しいと思っている相手がなんとなく理に適ったようなことを言うと無視してしまいがちになるんだよね。
二之宮は話がうまいし、美波には気を付けてほしいかな」
「う、うん・・・気を付けるよ」
とりあえず、美波に釘を刺しつつ話をしてたら図書館へ着いたので、気持ちを切り替えて勉強した
◆
冬樹はわたしのことを気にかけてくれていた。
たしかに、言われてみれば二之宮さんに言い包められていた様に思う。
パパ活が普通とか言われなければわからないとか、一方的で身勝手な屁理屈だ。
そもそも、二之宮さんは冬樹と付き合いたいと思っているわけで、ライバルになるわたしを陥れる材料になる。
そう!人を陥れるのが二之宮さんのやり方だって冬樹が言っている。
そもそもわたしは何を勘違いしていたのだろう・・・冬樹と二之宮さんで信じられるのは冬樹に決まっている。
それにしても、冬樹はわたしのことを考えてくれていて嬉しく思う。
やっぱり信頼できるのは冬樹だ。それを間違えてはいけないと肝に銘じておかないと・・・
図書館は一度席を離れると他の人に取られてしまうので、昼食を後ろにずらしてひたすら勉強をしていたのだけど、さすがにそのやり方だと13時過ぎたあたりから腹も空いてきて集中力が大きく落ちてしまう。
14時過ぎになって集中力が途切れてしまって昼ごはんを食べようと提案したら、冬樹もお姉ちゃんも賛成してくれて駅前のファミレスへ入り、食事が終わったところでお姉ちゃんが話を切り出してきた。
「実は昨日の夜に
クラスの雰囲気もだいぶ変わっているから学校へ来ないかっていう話もあったのだけど・・・言付けだけね」
お姉ちゃんの話は、案外悪くないかなと思った。
冬樹は冤罪の被害者だし、わたしだって被害者だ。例の動画が出回ったせいで変な目で見てくる人もいるかも知れないけど、冬樹が一緒なら大丈夫な気がする。
それに、家に籠もっていると冬樹はお姉ちゃんとずっと一緒にいるし、わたしが一緒にいる時間を作ろうと思ったらこうやって勉強するくらいしかない。それだったら学校へ行った方が良い様に思う。
「わたしは学校へ行くのも悪くないと思う・・・冬樹が一緒に行ってくれるんだったら行きたいかな?」
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