第46話
◆
そんな状態の岸元さんに話しかけていき岸元さんの気持ちが不安定になってしまっていることもあってか急速に距離が近付き、時間が合えば一緒に勉強をする仲になれた。
凪沙のせいで不安定ながらも岸元さんとの関係が進展していると感じているある日、サッカー部へ入部してすぐに知り合ったフットサル部の
「あのさっ、去年一度断られてるけど、あたしと付き合うことをもう一度考えてもらえないかな!
返事は今すぐじゃなくて良いからっ!じゃっ!」
言いたいことだけ言って俺には何も言わせずに走り去ってしまった。
仲村先輩は活発で男っぽいところもあるけど、美人と言える見た目だし好意を持ってもらうのは光栄だ。でも、俺は岸元さんが好きだから断ろうと思って・・・
「おう、サギ!今仲村に告られてたな!
今度は仲村と例の空き教室だな!」
「いや、でも、凪沙と違って・・・」
「は?ナニ言ってんだよ?お前ひとりの問題じゃないだろ?
おう、
通りかかった高橋先輩も寄ってきて田中先輩との話に混ざってきた。
「ん?
「どうしたもこうしたもないんだよ。仲村に告られたのに例の空き教室に連れ込まないとか言うんだよ」
「それはダメだな。みんな楽しみにしてるんだし、隆史ひとりのワガママでなしってのはおかしいな」
「いや、仲村先輩は同意してないですし・・・」
「そんなの関係ないだろ。
「そうだぞ、サギ。お前が呼び込めば後はオレらでちゃんとフォローすっから!それでいくべ!」
どれだけ逃げようとしても部活の仲間が増えていき、最終的には俺が折れることになった。仲村先輩に対して申し訳ない気持ちがあったが、そもそもそんな状況を作ることになった恨めしい気持ちも少し芽生えていた。
結局、俺が凪沙に無理やり乗せられた泥舟に喜び勇んで乗り込んできた仲間たちと一蓮托生の悪夢が始まった。
告白された翌日に仲村先輩へ付き合うと返事をし、その2日後に仲村先輩を例の空き教室へ呼び出すことになった。
嬉しくもなんともない配慮だが先輩たちは、最初は俺からと妙な譲り方をしてきて、半ばヤケクソで仲村先輩の初めてをもらった。空き教室なんてムードも何もあったものではない場所で最初は怪訝な顔を見せた先輩だったけど、終わったあとには痛そうながらも幸せそうな表情で俺を見つめてくれた・・・
・・・そんな余韻に浸るまもなく先輩たちが入り込んできて、あとは凪沙の時と同じ様に各々の欲望を仲村先輩へぶつけていた。ただ仲村先輩は凪沙と違いそんな事をするなどと微塵も思っていなかったわけで、泣き叫ぼうとしたしそれを誰かしらが何らかで口を塞いで恐怖から絶望した表情へと変わっていった。
臆病者の俺は、ひとり傍観者でいることもできず心が悲鳴を上げているのを感じながらも仲間たちと同じ事をしてしまった。
全てが終わり、高橋先輩が仲村先輩へ「今の様子は動画に残っているから、バラ撒かれたくなかったら、わかるよな?な、隆史!」と言って去っていき、他の仲間達もそれについて部屋を去っていった・・・と思うが、俺の記憶はそのあたりが曖昧になっている。
そして、相変わらず凪沙が俺だけ強制参加の
芳川さんはその1回でショックが大きかったようで、その翌日から一度も学校へ来ていない・・・人格が悪魔に支配されているとしか思えない仲間や先輩と、それらによって尊厳を破壊される俺に好意を寄せてくれる人達・・・
そんな悪夢のような毎日の中で、岸元さんとふたりきりで勉強をしていた時に弱音から告白めいた事を口にしたら、お試しで付き合ってもらえることになった。仲村先輩や芳川さんには申し訳ないけど、岸元さんと付き合うことだけは絶対に誰にも知られてはいけないと心に誓ったが、そんな都合よく物事が運ぶこともなく岸元さんも
既に恒例となりつつあった先輩たちからの恫喝まがいのお願いを受けた俺は覚悟を決め、強引にだが岸元さんの初めてをもらい翌日に例の空き教室へ連れて行った。
取り返しがつかないところまで事態が進んでしまった以上、俺が岸元さんに嫌われ憎まれることは間違いないので、これ以上巻き込まずに済むようにすべく行動をしようと思ったが、凪沙の方が行動が早かった。
恐らく違法薬物と思われるものを俺と凪沙に使わせたのだ。これで凪沙は警察に通報し、俺が凪沙に強要したとして逮捕させるつもりなのだと悟った。この様子も隠しカメラか誰か凪沙の手の人間が盗撮して通報されるのだろうと悟った・・・どうせ俺がありのままに供述しても、凪沙が被害者として証言を行い警察が納得するだけの証拠も揃っていて俺の立場が悪化するだけだろう。初恋の岸元さんや俺に好意を寄せてくれた仲村先輩に芳川さんの人生を滅茶苦茶にし、仲が良かった友人やサッカー部の仲間の人間性が壊された悪夢が終わるならそれも悪くないと思った。
想像通り警察がやってきて取り調べの結果から保護観察処分を受けることになり、自主休校させられ、その後も学校からも自主退学の勧告を受けた。凪沙の書いたシナリオ通りなのがシャクではあったが、流れに逆らっても立場が悪くなるだけだと諦め全て流れのままに受け入れた・・・幸いと言っても良いのかわからないが、凪沙は自分以外のことは言わなかったらしく、俺自身も深く反省していると判断してもらい、表面上俺が行ったことになっている事からすれば軽い処罰で済んだと思う。
本当なら余罪として岸元さん、仲村先輩、芳川さんたちの事も言うべきだったのかもしれないが、証言することで余計に巻き込んでしまうことを考えるとそれもできなかった。その後も警察から追及を受けなかったということは、他の誰もが言わなかったということなのだろう・・・
家族にも迷惑をかけたし、これからも過去の事実として迷惑をかけ続けることになるだろう・・・岸元さんへ横恋慕し、諦められずに凪沙の手を借りようとした俺が悪かった・・・だが、凪沙だけは絶対に許せない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます