第17話

岸元美晴きしもとみはる 視点◆


数日前、美波みなみから【たすけて】とだけ書かれたメッセージが届き気になったので、実家の隣に住んでいる幼馴染みの夏菜かなちゃんと春華はるかちゃんに様子を見てもらうようにお願いした。


ちなみに、冬樹ふゆきくんは男の子だし、【たすけて】の内容が冬樹くんと何かあった可能性もあると思ったので冬樹くんには送らなかった。


翌日様子を見てきてくれた夏菜ちゃん達から大丈夫そうだという内容のメッセージはもらっていたけど、それでも自分の目でちゃんと確認したかったのでゴールデンウィークぶりに実家へ帰省した。


帰省と言っても大学も実家も都内で、一人暮らしをしないでも余裕で通学できる距離だからちょっと時間のやりくりをすれば良いし可愛い妹のためなら苦にもならない。



そもそも一人暮らしは勉学に専念したいからと言うことで両親には聞いてもらったのだけど、本音の理由は冬樹くんと美波が付き合うのを見たくなかったというものだ。


私が大学進学した時は、ふたりが中学3年に進級したタイミングだったけど、傍から見たら両片思いでどちらかがほんのちょっと歩み寄ったら絶対に付き合うだろうなという雰囲気だった。


私は冬樹くんより4学年分年上で、更に言えば私が4月生まれで冬樹くんは2月生まれだからほぼ5歳差と離れているのだけど、私が高校へ上がった時には彼のことが異性として好きだった。


冬樹くんは私に物心が付いた頃に生まれ、うちと神坂かみさかさんのお家とで子育てを助け合っていた関係だったのもあってずっと見ていた弟分だったけど、彼が小学の中学年くらいになった頃からカッコよさがメキメキ現れ始めてきてドキッとさせられることが時々あったのだけど、中学生の時の4学年差の壁はエベレストのように高く自分で気の迷いだと言い聞かせ続けてきた。


でも、私が高校に合格した時にお祝いで冬樹くんがおしゃれな料理を振る舞ってくれ、更にはプレゼントにセンスの良いネックレスまで用意してくれ、それを私の首に着けてくれた瞬間に『この恋心には嘘をつけない』と確信した。


しかし、冬樹くんは当時も既に同い年で最も身近な家族以外の異性である美波のことをすごく意識していたし、美波も冬樹くんのことが好きなのが隠れてなかった。高校生が小学生と恋愛なんて非常識だし、冬樹くんに迷惑をかけたくなかったから自分の心の中に閉じ込めておくことにしていた。


そして、国内最高峰の国立大学へ合格できたので、ご褒美半分で一人暮らしをさせてもらうことを願い、両親から許してもらって一人暮らしをするようになった。


中学から高校にかけ今以上に魅力的な男性になるに違いない冬樹くんと美波が付き合うところを見たくないという理由で一人暮らしを許してもらえそうな難関大学を進路に選んだ私は不純の塊だったけれど、無事に合格できてよかった。


大学を卒業した後も実家へは戻らず一人暮らしを続け、冬樹くんと美波が付き合うところをできる限り見ずに済むようにするつもりでいた。



そういう思いもあり、実家も大学も都内なのに一人暮らしをしながら帰省も極力しないようにしていたのだけれど、妹のためなら致し方なしだ。




そして週末になり帰宅すると、妹の元へ冬樹くん達が来ていたので、恋する乙女の感情を我慢できず冬樹くんをひと目見たくておちゃらけながら妹の部屋へ突入した。



女の子3人は号泣していたのか顔がブサイクになってて、みんな元が良いからそれでも可愛いけど、普段と比較したらぜんぜん魅力が減衰していたし、冬樹くんも今までに見たことがないくらい影を落としている表情だった。



元々【たすけて】が気になっていたので、そのまま美波たちの輪に入れてもらって話を聞かせてもらったのだけど、とんでもない話を聞かされて冷静さを装うのが一苦労だった。



冬樹くんが陥れられて、しかもこの子達が冬樹くんを信じてあげなかったり、神坂家でもそれが原因で揉めて冬樹くんが家を出ていったり、云々と・・・極めつけは美波が冬樹くんを陥れた張本人と付き合い、しかもそいつの悪い仲間に辱められたまであったことは私の精神の許容量を超えていた。



表層的には冬樹くんも美波を気遣っているけど、恋心は全く無くなっている感じだった。冬樹くんが美波をこんな目で見ることがあるのかと驚かされるくらいどうでも良いことと思っているように察せられた。美波本人だけでなく夏菜ちゃん達もまだ気持ちに余裕が無いのか冬樹くんの気持ちの変わりように気付いていないみたい。


今までは美波という防波堤がいたから夏菜ちゃん達の気持ちは重度なブラコンで収まっていたけれど、このままだと一線を越えて冬樹くんに対して異性としての恋心が芽生えてしまうかもしれない。


でも、今はまだそうなっていない。美波には悪いけどこれは私にとって大チャンスだ。




今日の私はいつものように妹たちへ親身に振る舞うよきお姉ちゃんを装いつつ、今度は諦めずに冬樹くんと恋人になる可能性に手を伸ばしたいと思っていた。

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