第16話
◆
どうせ美波との話が終われば家に行く予定だったし困ることはない。どちらかと言えば困るのは美波だと思うくらいだ。
それにしても、美波は事件で疑われるまでは間違いなくこの世で一番好きな人だったし、将来は結婚し添い遂げたいと思っていた女性だった。
疑われたことで腹が立ったし絶望もした。家族とのこともあり憎さもあってしばらくは怒りの感情を向けていたが、例の空き教室に
よく言われることであるが「好きの反対は無関心」というやつだろう。なんだかんだ思っていても心の何処かで疑いが晴れたら前までの様に仲良く過ごせると、また恋愛対象になるのだろうと思っていたから怒りや憎しみの感情があったのだと悟った。
鷺ノ宮はソトヅラを繕うのが巧いから俺を陥れた事を知らずに騙されていたのかもしれない。それはいい。物心がついた時からずっと隣りに居続け、想い出を、経験を、苦楽を、あらゆる物を一緒に積み重ねてきていた俺のことが、美波にとってはどうでも良い存在だったと突きつけられたと痛感した瞬間だった。
鷺ノ宮や悪い仲間から性欲の捌け口にされているのを見ても、赤の他人に対して気の毒と思う程度の感情しか湧かなかった。これが美波の意思を無視した強姦だったのなら社会的に抹殺する勢いでありとあらゆる手段を採り無茶なことでもやったと思うが、そんな気持ちは微塵も湧いてこなかった。
もはや絆がある相手と思えない存在のために俺が何かする気力があるわけがなかった。それでもこどもの時からお世話になり続けてきた岸元家のおじさんおばさん
姉さんや
「わかりました。前と全く同じというわけにはいかないでしょうけど、近付けるように努力しましょう。たしかに、俺が近付けさせない雰囲気を作っていたのもありますし、お互いに悪いところがあったということで仲直りしましょう。
岸元・・・じゃなくて美波、それに姉さん、ハル、まずは呼び方ですね。あと、家に帰るかどうかはお父さんお母さんとも話をしないと決められないでしょう。今日は家にいるんですか?」
俺がそういうと姉さんたちが顔がグシャグシャになるほど泣き出して、でもそれは嬉し涙だと感じさせるものだった。
姉さんたちが泣き止みティッシュで顔を拭ったくらいのタイミングにノックもなくドアが開けられた。
「美波ちゃん、
美晴お姉さまがケーキを買ってきたよ~。食べよ~ぜ~」
と言いながら満面の笑みで入ってきたのは、俺たちの姉貴分で美波の実の姉である美晴姉さんだった。
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