【幕間3】 対立
《1923年 11月 ベルリン》
ここは、とある市場の一角である。
「卵10個入りが欲しいのだけど、値段は書いてないのかい?」
「値段?えーと、今は3兆2000億マルクだね。」
「3兆2000億か、100兆マルク紙幣がなかったら買えなかったよ。」
「昨日の10倍だから驚きだよ、ほんとに。」
「パンは、3600億か、とりあえず3つ頂戴。」
そんな会話を耳にして、男はほくそ笑んだ。貨幣経済の崩壊ともいえる光景は、正しく男の望んだ景色だった。保有していた資産は次の日にはゴミ屑になる。資本主義の崩壊でもあった。
「平等!公平!これほどまで恋焦がれた世界が!もう目の前にあるなんて!イクッ‼」
この瞬間、歴史上もっともアナリズムの目指す世界に近い場所はここベルリンであった。
持つ資本によって格差が生まれる世界など、平等の対極であるからして、この世界から資本主義を一掃せねば。そう言って男は歩いて行った。
―――――――
《1942年 ポーランド某所にて》
「何故だ!アナリズムを信仰するなら、平等を目指すべきだろう!」
深夜、路地裏で2人の男が言い合っていた。
「うるさいなぁ。何事にも代償は付き物でしょう。彼ら600万のユダヤ人がこの国から居なくなれば、よりアナリズムに近づくのは、自明でしょぉ?」
「しかし、我々自ら差別を助長するなど!嘗ての志はどうした!」
彼は、知っていた。いや、知ってしまったのだ、現実を。
「だからさぁ、この国の大半の人間が望んだことでしょぉ?我らはそれに少し手を貸すだけだよ。それで醜い愚民が共倒れしてくれるなら、それが最善じゃないか。」
冬になれば、
「私は、断固反対だ!」
「今更手を引いたところで、結果は変わらないと思うけど?しかし、彼はもうだめだね。あれはアナリズムの信仰を見失い始めているから。まぁ心配しなくても、あれなら近いうちに破綻するだろうね。」
そう言って、ふざけた態度の男は歩いて行った。
「我らの信仰のために、ここまでするとは。なら私は私で、アナリズムの信仰を貫くとするか。」
この男が、後の『キンタマーニー』の信仰の礎となるとは、まだ誰もしらない。
―――――――
※これはフィクションです。現実の出来事とは全く関係ありません。
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