【幕間2】 信仰
《これはあるアナリストの証言である》
ここは落ち着いた雰囲気の喫茶店、角のテーブルにコーヒーカップが二つ、机に置いてある。
「人間は、どこまでも愚かである。」
彼は、ため息をつきながら、私にそう言った。
「人は何故、合理的選択を取らない?人は何故、感情を優先してしまう?」
確かに、人間は非合理的な選択をすることがある。それは私も同感だ。しかし、それをやめた時、人間は人間でいられるのか?という問いがあるのも事実だ。
「非合理性が人を人たらしめているのなら、私は君の言う人間性をも捨て去ろう。」
私はそれを聞いて、彼は相当に人間嫌いな人だな、と思った。
次に彼は、こう私に聞いてきた。
「もし、人が合理性のみを追求すれば、地上から争いはなくなるだろうか?」
それなら、争いはなくなるはずだ、と私は答える。
「いいや、無くならない。メリットとデメリットを比較し、その結果デメリットが少ないなら、争いという選択肢を取らないとは言えないだろう。」
続いて彼はこう言った。
「君たちは勘違いをしているようだ。そもそも争いが非合理的であると思い込んでいる。その最も大きな原因は、考える視点にあるのだと、私は思うのだよ。」
考える視点、確かに’争い’と聞くと、どうしても当事者で事を想定してしまう。
「人の身である以上、良心を完全に排除することは難しい。しかし、手を下すのが自分でなければ、心が痛むことはないだろう?」
そう言った時の彼の顔は、まさに悪人であった。
「私はね、今まで多くの命を手にかけてきた。それは、人の感情など関係なしに、ただ目的を遂行する為だけにね。でもね、どれだけ人の命を奪っても、目的は果たされなかった。」
諦めたような口調で、そう言った。
「人間は弱い。この世の宗教なる物を信仰してしまうほどに、弱い生き物だ。だからこそ、理想郷を得るための犠牲を受け入れられない。人間性こそが、最も大きな障害になるとは。これはまるで、神が人に与えた呪いではないか。」
今の彼は、悲壮感を纏っていた。コーヒーは既に冷めている。
「神は初めから、人の身でエデンの園に入る資格を奪っていたらしい。」
突然顔を上げて、力強く私に訴え掛け始めた。
「だから!私はアナリズムを求めたんだ!」
その声は店中に響いた。
「アナリズムは、弱い私の心を支える、この世界に抗う私を支える、唯一の救いだ。」
最後に、残ったコーヒーを一息に飲み干し、こう言った。
「君もアナリズムを信仰するだろう?まず初めにこれを読んでみてくれ。」
そして、一冊の薄い本を渡してきた。その表紙には『アナリズム』の文字があった。
―――――――
『アナリズム』第1項、第1節
タイトル
『パラダイスキングのお言葉♡』
「ドデカイラーメン、
......
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