【幕間1】 本質

これは、アナリズムを信仰する数多のアナリストを、1世紀以上に渡り取材した記録である。




―――――――


《明治38年 7月 記録》 


「アナリズム?それは神であり、理想郷なのだよ!」


これは、あるアナリストの言葉である。アナリズムを信仰する人々はアナリストと呼ばれた。


「我々は、従順で恭順な僕なのだ!」


彼らは、ただひたすらアナリズムの教えを説いていた。


「この世界は平等に侵されなければならない!」


別のアナリストはこう言った。いまだ全貌が明かされないアナリズムの教えの一端を垣間見た。






《昭和4年 10月 記録》


「嗚呼、アナリズムよ、世界の平等に加担した私をお許しください。」


このアナリストは資産家であった。彼は言った。平和維持に軍事力という暴力が必要なように、平等のために不平等が必要なのだと。


「まさか、これほど容易く崩れるとは、アナリズムのお陰だ。」


既に世界経済は砂上の楼閣、すこし押せば簡単に崩れる。後の世界恐慌でさえ、計画の一部に過ぎないのだと。






《昭和8年 記録》


あるアナリストは、ドイツにかの政権が樹立した時、こう言った。計画が始まったと。


「彼らは、どうしようもない程に平和に焦がれているのだ。彼らを手助けすることがアナリズムの御望みなら、我々はただそれに従うのみである。」


世界の悲劇は、彼らの喜劇。かの総統はアナリストの一人であったという。一国が、一人のアナリストに熱狂した。それは偶然なのであろうか。






《昭和20年 9月 記録》


「世界は、平等から大きく後退した。しかし、我々はいまだ前進するのみである。」


世界には、どれ程アナリストがいるのですか?という問いに対して、彼はこう答えた。


「アナリズムとは、遍く人々の心に潜む悪魔である。我々は、その悪魔を飼いならした。君がその悪魔の存在を自覚した時、君はアナリストなのだ。」






《令和元年 11月 記録》


「いいかね?平等な世界、つまり理想郷には、格差など存在しないのだよ。」


私は、アナリズムの教えについて質問していた。


「では、ここがユートピア理想郷だとする。そうすると、君と私は同一人物になる。何故だかわかるかね?」


私には、皆目見当がつかなかった。



「平和で平等な世界では、生まれが違ってはいけない。なぜならそれが身分を生むからだ。」

「平和で平等な世界では、身分が違ってはいけない。なぜならそれが差別を生むからだ。」

「平和で平等な世界では、見た目が違ってはいけない。なぜならそれがいじめを生むからだ。」

「平和で平等な世界では、考え方が違ってはいけない。なぜならそれが争いを生むからだ。」



その考えを聞いて、次に私はこう聞いた。「その世界では、自由はないのですか?」と。


「君は面白いことをいうね。もし本当の自由が存在するならば、自由を求める人など存在しないのだよ。」


だって既に持っているからね。と言った。私は感動した。アナリズム、それは確かに私の中に存在していた。


「やっと気づいたかね?自由を求めた時点で、君は既にアナリズムを求めているのだ。君ももう、アナリストだね。」






―――――――


歴史の史実を見ても、『アナリズム』という単語は出てこない。


しかし、アナリズムの思想は、確実に人類の誕生と同時に生まれていたのだろう。


そして、すべての人が、無意識にもアナリズムを求め、潜在的なアナリストであったのだ。






「ニョニョニョニョッ!感謝のビンビンを穴利シコ!」








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