ゴブリンの集落

亀裂の隙間に入り込むという、前世では絶対経験できないことをしながら突き進むと不意に広い空間へと躍り出た。

その空間はゴツゴツとした石に囲まれたそれなりに広い場所で、天井付近には数匹の蝙蝠がぶら下がって俺を見つめていた。


(あの亀裂があった場所を考えるに洞窟の最奥かな)


ここが考えている通りの場所なのかはわからないが、このまま進んでいけばゴブリンの集落へとたどり着くだろう。

俺は天井の蝙蝠たちと別れの挨拶を交わしながら(通じていない)、洞窟を逆走するルートで進み始めた。

洞窟内は光のない真っ暗闇の場所(うっすらとは見える)であったものの、予想したよりも空気は乾き澄んでいた。


(おそらく入ってきた場所以外にも通気孔があるんだろう)


そんなことを考えながら洞窟内を進んでいると広い通路に差し掛かった。

通路は今まで通ってきた通り道のように壁沿いや床に石が散乱しておらず、歩きやすいように整備されていることが一目でわかる有様であった。


(集落が近いのかもしれない)


道が整備されているということはここを頻繁に通る何某かがいるはずであり、それはゴブリンであることは明白であった。

このまま真っすぐ行けばゴブリンの集落に行けるだろう。

そう結論付けると俺は整備された通りを進んでいった。

しばらくは整備された平坦な道が続き、そろそろ景色に飽きてきた頃、ゴブリンの集落は現れた。

利用している洞窟そのものは岩などがむき出しのいかにも山賊や蛮族のねぐらといったものであったが、その中に作られたゴブリンの集落は、形も大きさも異なる石を組み合わせた素朴ながら文明を感じさせるものであった。


(これがゴブリンの集落か)


俺はエルフとはまた異なる様式の集落に興味を抱きながら、ゴブリンたちに見つからぬよう気を付けながら彼らの生活を観察することにした。


◇◇◇


ゴブリンたちの集落は現在厳戒体制が敷かれているためか、それとも普段からそうなのかは判然としないが、あまり活気がなく静まりかえっていた。

どの家も戸や窓を閉じ、時々外の様子を窺おうとする子供を嗜める母親の姿が散見された。


(好戦的と言われるゴブリンがここまで警戒する存在ってなんだろう?)


洞窟入り口でも感じたがヴィヴィアンから聞いたゴブリンの好戦的な性格とは異なっている。

確かに戦時中とかなら警戒する様子を見せるのは理解できる。

しかし今、目の前にいるゴブリンたちは警戒しているというより天敵に怯えている様子に俺には見える。


(本当に何があったんだ?)


ここのゴブリンたちに話を聞きたいが、如何せん今のスライムの体では言葉が話せないし、音も聞こえない。

地面に文字を書いて意思疏通を図ろうにも彼らゴブリンにヴィヴィアンから教えられたエルフ語が通じるかは未知数だ。

そもそも話を聞いてくれるのかも怪しい。


(どうしたものか?)


いろいろ考えを巡らせ、断念するの堂々巡りを続けていると目の前の家々の中に一軒だけ戸が少し開いている家があった。

開いている戸の隙間からはその家の子だろう小さなゴブリンがこっちをじっと見つめていた。


(そうだ)


大人たちに聞けないなら子供たちに聞けばいいじゃないか。

多少警戒もするかもしれないが、子供なら興味の方が勝るだろう。

俺はその考えに至るとこちらをじっと見つめる子ゴブリンにゆっくりと近づいていくのだった。

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スライム転生-ただ穏やかに生きたかった男のスライム譚- 俗悪 @okinagusa

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