ゴブリンを追跡し

 ゴブリンたちに付かず離れずの距離を保ちながら、彼らを観察していたら集落とおぼしき洞窟へとたどり着いた。

 洞窟の入り口ではたくさんのゴブリンたちが忙しなく出たり入ったりしており、到底見つからずに集落内へ侵入できそうな気がしなかった。


(これはどうすべきか)


 俺はゴブリンの暮らしを垣間見ながら、ヴィヴィアンたちに危険が及ぶまいか判断したいだけなのだが、現状何者かと争っているゴブリンたちは皆、殺気だっていた。

 これでは俺がただのスライムとして現れたとしてもゴブリンたちは見逃してくれないかもしれない。

 現にただ目の前を通りすぎようとした鳥にまで反応している始末である。


(これじゃ駄目だ。別の場所を探そう)


 俺は洞窟入り口を諦めて、別の入り口を探すことにした。


 ◇◇◇


 ゴブリンが住まう洞窟は樹齢数百年は経とうかという巨木の下にある。

 成人男性の胴体ほどはあろうかという太く頑丈そうな根っこによって入口は隠されている。

 そんな洞窟であるからてっきり別の出入り口も巨木によって隠されているものだと思っていた。

 しかし、俺が巨木の周りをぐるりと一回りして探してもゴブリンが出入りできそうな大きさの穴は見当たらなかった。


(う~ん、当てが外れたか?)


 いくら洞穴だとてゴブリンたちがあんなにたくさん住み暮らしているのだから、別の出入り口や空気穴の一つくらいあっても良さそうなものなのだが。

 俺は不思議に思いながらも一端は諦めることにして、別の方法で侵入できないかを考えることにした。

 別口の侵入経路を考えるにあたり、もう一度巨木の周りを探索することにした。

 巨木の周辺には元々はひとつの大岩だったのだろうことが伺える苔むした大小さまざまな岩が散見された。

 場合によっては岩と岩が重なり合って天然の巨石建造物のような有様であり、ゴブリンの集落に利用されていなければ神社の神域と言われてもおかしくなさそうな清浄な空気が感じられた。

 そんな巨木と巨石群をもう一度見て回っていると先ほど見たゴブリンの集落出入口とは丁度反対方向に位置する巨石群が気になった。


(なんか気になるな)


 俺は興味の赴くままその巨石群へと近づいた。

 すると先ほどは気が付かなかったが、この巨石群から微かではあるものの風が通り抜けていた。


(おお、別の侵入経路が見つかった!)


 俺は早速、どこから風が吹いているのかを探し始めた。

 通気口はすぐに見つかった。

 そこは巨石が積み重なっているところの奥にあった。

 巨木の根っこの下に亀裂がはしった巨石があり、その亀裂から洞窟内の空気が風となって通っていたのだ。

 だが、残念なことに亀裂の大きさはとても細く容易に入ることができるとは思えなかった。


(くそ、残念だな。これじゃあ、入れ・・・いや?)


 俺は入れなさそうだと見るや諦めかけたその時、天啓に撃たれた。

 確かに亀裂は狭く人ひとり、ゴブリン一体、それどころかネズミ一匹入ることは容易ではない。

 しかし、今の俺は前世の出倉健一ではない。

 体は液体とも固体ともつかない粘性の物体で出来ており、それは前世のアメーバを思わせるものであるが、それ故他の生物が想起しえない場所に侵入することができる。

 ならば、この目の前にある狭く小さい、ネズミ一匹ですら入ることができるかわからない亀裂にも今の俺ならば入ることができるのではないだろうか。

 そう一度でも思ってしまったならば俺は試さずにはおれず、その亀裂へと体をぴったりとくっつけ、ねじ込むように体を滑らせた。

 するとどうだろう、俺の体は亀裂を滑るように、何の障害もなく潜り込んで言ったではないか。


(おお。いけるいける)


 俺は新たに発見した己の体の不思議に何度目かになる興奮を覚えながら亀裂の中へと入って行くのだった。

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