さらに月日が経ち
さらに月日が経ち、半年が過ぎたある日のこと。
俺は〈瞑想の実〉集落を離れて、ゴブリンを倒したあの湖へと足を伸ばしていた。
(やっぱりここは綺麗な場所だなあ)
俺は何度目かになる感嘆を心に浮かべながら、湖を散策していた。
理由はといえば、ゴブリン探しである。
エルフと仲良くなったのだからもうゴブリンは良いのでは?と思われるかもしれないが、やはりゴブリンにも話はできなくとも接触はしてみたい。
ヴィヴィアンにこの事を伝えたら、すごく心配された。
彼の説明によるとゴブリンは好戦的な種族とのことであり、体躯は小さく、膂力もあまりないものたちではあるが、その分知恵が回り、奇襲や罠に掛けてはその種族にも劣らないという。
そんな種族に会いに行くと言うのだから、そりゃあ心配もするというものである。
(あの時は大変だったなあ)
心配のあまりヴィヴィアンが涙をポロポロ溢して行くな行くなと引き留めようと躍起になるし、その様子を心配した子供たちが輪になって囲んでくるし、さらにその様子を見た大人たちが何事だと来るしでドンドン事態が進行していってどうなるかと思った。
幸い、少しお歳を召した方が事態の収拾に尽力してくれて次第に落ち着いていったけれども。
(今度、お礼しよう)
そう思いながら、俺はヴィヴィアンの意外な弱さを思い知った。
彼は〈瞑想の実〉集落の長であるが、それと同時に見た目相応の少年でもあるのだ。
友達が危険な目に遭うかもしれないと知れば、それは躍起になってでも止めようとするだろう。
(配慮が足りなかった)
帰ったら謝ろうと思いながら俺は湖の向こう側、〈瞑想の実〉とは反対方向にある森へと入っていったのだった。
◇◇◇
森を少し進んだ頃、森の様相が変わった気がした。
森の植生が変わったとか、生息している動物が変わったとか、そういう物理的な変化ではなく、何となく森の雰囲気が湖周辺とは明らかに変わった気がしたのだ。
それが確信に変わったのは目の前にゴブリンが現れた時だった。
ゴブリンは3~4人ほどが固まって行動しており、周囲を余談なく警戒していた。
彼らはそれぞれエルフたちが身に着けている者よりは粗雑な作りではあるものの石製の槍や弓を所持しており、いつでも戦闘が出来るように身構えていた。
(何をそんなに警戒しているのだろう?)
ヴィヴィアンは彼らゴブリンを好戦的な種族と断じていたが、今目の前にいる彼らは聞いていた様相とは些か異なっているように感じられた。
今の彼らからは積極的に攻撃を仕掛けると言うよりも何か自分たちを脅かす何者かから身を守る為に行動しているとしか感じられない怯えが感じられた。
(ヴィヴィアンたちに被害が来るといけないしな)
俺はゴブリンたちの様子からなにか不吉なことが彼らに起きているのではないかと考えた。
それがゴブリンたちのみに降りかかるのであれば良いが、万が一にもお世話になっているヴィヴィアンたち〈瞑想の実〉集落のエルフたちに火の粉が降りかかるのは御免被ると思い、彼らを監視することにした。
(これで何かわかれば良いが)
俺はそう願いながら目の前のゴブリンたちの後を追跡していくのだった。
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