2 エピローグ




 一



「黒の者たちからの情報です」

「ご苦労。報酬はいつも通りだ」

「ありがとうございます。それでは」


 公国のとある教会の一室。

 全身を白い服装で身を包んだ二人が秘密の会話を行なっていた。

 それは、商国の未開拓領域での一件。

 開拓を成功させた事実に加え、貴国、魔国のスパイ、そして謎の単独の男の情報が書き記された報告書を、とある司祭が大司教へ届けたところ。

 この二人の密会は定期的に行われており、会話もスムーズに済ませ時間を空けて一人ずつ教会を後にする。

 ただ、その際に大司教はとある手紙を複数枚書き記していた。

 内容は司祭によってもたらされた情報。

 送り先は、教皇、枢機卿、他大司教、一人の王女だった。


「…………警備を徹底させなければな」


 大司教はその一言を空の部屋に残していつもの日常に戻った。



 二



 その情報がもたらされた時、私は自分の無力感に苛まれていた。

 どうして国がめちゃくちゃに壊されなければいけないのか。

 私の家族が何をしたのだ。

 そんな事を数分置きには思い出し、鬱屈とした数日を過ごしていた。


「リューナ様。カルト大司教より報告の手紙が届いております」

「…………置いておいて」

「申し訳ありません。至急確認するよう伝言も預かっております」

「…………ちょうだい」


 私の身の回りの世話をしているクロエが丁寧に対応してくれる。

 それだけで私は優しさを感じてしまう。

 それほどに弱っているのかもしれない。

 私はクロエから手紙を受け取り封を開ける。

 公国は珍しくも纏まりのある運営陣で、このように大事な報告などはすぐに全体に知らせられる。

 私はこの国出身では無いけど、諸々の功績によってかなり高い地位に就いているから知らせが届く。


「っ…………!?」

「どうされましたっ?」


 私の反応でクロエを心配させてしまった。

 そのため、一度手紙から視線を切ってクロエの目を見て安心させる。


「大丈夫よ…………少し、嬉しい知らせがあって」

「そ、そうでしたか。早とちりしてしまいました」

「ふふっ、いつもありがとう」


 心労をかけるクロエに礼を言ってまた手紙を読み始める。

 内容は商国の未開拓領域の開拓成功の真偽。他国の動向と謎の男の情報。

 私にとっての嬉しい知らせは後者の謎の男の情報。

 その男は、妹の手紙に書かれた特徴と共通しており、恐らく…………というより、ほぼ確実に故郷を壊した犯人で間違いなかった。

 私はあの日からこの男に復讐する事を頭の片隅で考えていた。

 国の復興も大事だが、それは妹が主体となってやってくれるはず。

 だから私は、自分にしか出来ないことをやろうと考えた。

 その答えが復讐。


「ふふっ、元気が出てきたかも。心配させたわね、クロエ」

「い、いえ。リューナ様が健康であれば何よりです」

「あなたは良い子ね。ほんとに」


 私はクロエの頭を撫でた後、運動できる服装へ着替えると、辞めていた訓練を再開させた。



 三



 カルト大司教の報告があった二日後。

 国を運営する者たちの中でも、限定された者たちのみが集まり会議を開くこととなった。

 集まったのは、教皇、枢機卿三名、大司教五名、近衛騎士団上位者五名、教皇護衛騎士団団長と公国の運営の中でもトップ中のトップが全員集まった。

 リューナはこの中の最後。教皇護衛騎士団団長としてこの会議に参加していた。


「手紙で報告したとおり、商国の未開拓領域の開拓は成功しております。そろそろ、私たちも動く時ではないかと」


 それぞれの挨拶後、口を開いたのはこの会議の発端となった報告をしたカルト大司教。

 それを受け、様々な議論が展開していくがまとまらず、結論が先延ばしになる流れになっていた。

 しかし、そこに待ったがかかる。


「未開拓領域に進出するか、しないか。これだけでもハッキリさせましょう」


 口を開いたのはリューナ。

 普段とは違う低い声で放たれた言葉に参加者たちの会話が止まる。

 数秒と静寂が訪れ、誰もが口を開くのを躊躇う中、一人の老人が発言する。


「要らぬ心労をかけてしまったな。我々は未開拓領域に進出する。これは極秘で行い、成果物を見て公開するか決めるものとする」


 発言したのはこの国のトップである教皇。

 その言葉に参加者の誰もが注目し、それを聞き終えると全員がその言葉を信じて行動を開始した。


「本日はこれでお開きにしましょう。やらなければいけないことが山積みです」

「そうですね」

「捜索隊の選抜を始めます」

「国民の意識を逸らす催しを開催しよう」


 それぞれが行うことを口にしていき、一人また一人と部屋から退出していく。

 最後に教皇とリューナが退出し、その日の会議は終わる。



 四



 自室に戻った私は、誰にも聞かれないよう盗聴阻止の魔法を唱え、教皇へ念話を行う。


⦅教皇様。リューナです。お時間よろしいですか?⦆

⦅ああ、いいとも⦆

⦅ありがとうございます。単刀直入に。今回の未開拓領域に私も行けないでしょうか⦆


 本来は護衛をしなければならない立場にあるため、未開拓領域に私は行けない。

 しかし、教皇様ならそれを覆せる。

 そこに望みをかけて、私は教皇様にお願いした。


⦅国の為だな⦆

⦅…………はい⦆

⦅よかろう。活躍に応じて報酬を与えよう。勿論君だけではないから安心したまえ⦆

⦅…………ありがとうございます。それでは、失礼します⦆

⦅ああ、励みなさい⦆


 教皇様にはお見通しだったようだけど、未開拓領域への同行を許可して貰えた。

 これで国の復興が早く進む。


「絶対に許さないわ。犯罪者・綾人。王国の為にあなたを殺すわ」

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