2 五章-③




 九



 ロットル勇義団の怒涛の攻撃が始まって数秒。

 綾人の体には無数の打撲と切り傷、魔法属性による様々な傷跡が刻まれていた。


「うーん、しぶといね」

「やっぱちまちましたのじゃダメだな」

「貫いて良くない?」

「ダメだよ。生きて捕まえないと」

「そうそう。情報を貰わないといけないんだから」


 ロットル勇義団の面々は、ボロボロになっても立ち続ける綾人を見ながら会話を始める。

 だんだんと見切られ始めた攻撃に気づき、ロットルとジャスパー、グルズが次はどのように攻撃するか話し合う。

 女性陣はそれに前提の条件を告げて発案を待つ。

 ただ、それよりも速く動く人物が一人。


「しまった――――‼︎」


 ロットルが気づき声を上げる。

 綾人がその場を急に離れたのだ。

 徐々に漏れ出る魔力を抑えて気配を消し、五人が会話をする瞬間を狙っての行動。

 その一連の動きは狙いすまされ、魔力感知が得意なロットルが見失うほど。


「追うかっ?」

「いや、歩きながら話そう。彼の魔力はそう多くない」


 ジャスパーが尋ねロットルがそれに答えると、五人全員が歩き始め綾人を追う。


 この時の、誰もが気づかない綾人の行動。

 それは、綾人のスキルでのみ知り得る情報があり、それを綾人が獲得しに行くためのものだった。

 ボロボロになった綾人は意識が消えかける中、癖で発動した《真実の瞳》で不思議なモノを目にする。

 ――――世界スキル。

 綾人の瞳に映し出された文字は、そう書かれていた。

 その下には通常通り名前と用途が映し出され、最後に他のスキルの所在も明言されていた。

 それに気づいた綾人の行動は速かった。

 漏れ出る魔力を徐々に抑え体内に留まらせていく。

 それと同時に五人の隙をつくため、魔力で気配を探り隙を窺った。

 そして、全員の意識から綾人の存在が消えた一瞬。

 綾人は走り出して逃走を成功させる。

 すぐにロットルに気づかれたが、綾人にとってそんなことはどうでもよく、ただただ世界スキルを目指した。


「どこだっ、どこにある! 《真実の瞳》、《探知》」


 綾人は走りながら二つのスキルを併用してそれを探し求める。

 視界は様々な文字が並び、脳内ではレーダーのような観測器が動き出す。

 しかし、そこには五人の魔力反応もあり、近づいて来ていることを把握する。


「どこだっ、速くっ‼︎ あっ――――」


 焦り始め余裕の無くなった綾人に朗報が訪れる。


 ――――世界スキル《自然魔力操作》。


 その文字を捉えた綾人は、浮かび上がる文字の元へ近づいていく。

 手をかざし、《取捨選択》を発動する。

 側から見れば何をしているのか分からない。

 綾人が持っている《真実の瞳》があって初めてそこに何があるのかが分かる。

 そのため、綾人を追って来たロットル勇義団は、立ち止まった綾人の行動を理解できない。


「どうしたんですか? 諦めましたか?」

「諦めたんならそこに座れ」

「諦めるなら最初から逃げないでくれる?」

「やっと理解したようですね」

「ふぅぅ…………疲れちゃった」



 十



 目の前に存在する俺にしか見えないスキル。

 それを手にした俺はすぐにその用途を理解した。


「《自然魔力操作》、変換」

「急にどうし…………なにっ⁈」


 俺はスキルの能力である自然に満ちるエネルギーの魔力変換を行った。

 空気中に存在する自然魔力を筆頭に、大地、植物、周辺にいる生物のエネルギーを魔力に変換して吸収する。

 人間からも多少は得ることができるため、目の前の五人からも魔力を奪う。

 五人の内の一人。リーダーらしき男は変化に気づいたようだが、他四人は何も気づいていない。

 その四人からはもっと奪っておくか。


「なんだ? 痺れが…………」

「オレもだ」

「うそ? 私もよ」

「ちょ、ちょっときついかも…………」


 どうやら多く奪うと症状が出るらしい。今後に活かせる情報でありがたい。

 他にも実験したいところだが、逃走続きで精神的にキツい。

 魔力と体力は似てるところがあるから今は万全。

 ただ、この違いが気持ちが悪い。


「派手に逝け」

「待てっ――――‼︎」


 リーダーの男が四人の前に立ち塞がり俺を止めようと声を上げる。

 だが、俺は今までやって来たような情けはかけない。

 抵抗感は弱まっている。

 だから――――とっておきを放とう。


「カロール・サン」

「なっ…………!?」


 巨大な白く光る塊が、上に向けた手のひらから出現する。

 それには目の前の五人は目を見開き、呆然としているようだった。

 構わず魔力を送り続け王国で放ったモノより質の高いモノを作り、標準を五人の奥にある街へ定める。

 周りから奪った魔力を全て注ぎ込み終わり、目の前の出来事に絶望している冒険者らに向かって俺は魔法を放つ。


「…………全員結界を張れっ!」

「「…………‼︎」」


 動き始めた巨大な塊を見てリーダーが叫ぶ。

 そこで動き出した四人は指示に従い結界を張る。

 だが、リーダー含め五人の声はすぐに掻き消され、木々の燃える音や倒れる音、地面が焼ける音だけが響いていた。



 十一



 ずっと同じ景色を見ているのもつまらないため、俺は魔力を込めて上にジャンプする。


「コンセプト――――俺を中心に二メートル四方は地面と化す」


 空中で魔法を唱え、下に向けて手をかざすとその目の前に透明の板のようなものが現れ空中で留まる。

 俺はそれに座り巨大な塊の行方を眺めた。


「おお、領域の殆ど焼き尽くしてんな。火が燃え移るしこりゃ大変だね」


 自分で放っておいて他人事なことに内心笑えてくる。

 塊も止まることを知らずにどんどん進んで行く。

 領域を焼き尽くし、街への進入を開始する。

 木の柵は余裕で燃えて意味をなさい。

 恐らくあそこは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

 戻っていた冒険者も居るんじゃないだろうか。


「…………凄いな、世界スキル」


 今起きている大災害を見ながら、それを起こすことを可能にしたモノを素直に認める。

 ただ、一つだけでもかなり強力なモノがあと六つも存在する。

 もしかしたら誰かが先に手に入れているかもしれない。

 力を手に入れても対抗されればどうしようもない。

 もっと力を手に入れなければ、可能な限りの世界スキルを手に入れなければ、真の自由は訪れない。


「手に入れるしかないな」


 俺は口に出して決意する。

 これからは世界スキルの捜索を最優先に行うと。



 十二



 空中に座り巨大な塊が消滅するのを待って俺は地上へと帰還する。

 最後の爆発というか衝撃波というか、巨大な塊の最後はかなり被害をもたらした。

 街の途中で止まり一瞬小さくなったと思うと、すぐに膨張し始め最終的には破裂してかなりの距離を熱風が走っていた。

 水蒸気が白く揺れてその範囲を知らせていたが、中流層の区画にも届いていたんじゃないだろうか。

 まぁ、どうでもいいことだ。

 俺の行動方針の自由に生きるための第一条件、力を得ること。

 こっちの方が優先度が高い。

 絶対的な強さを得れば、この世界では自由に生きることができる。

 というより、そうせざるを得ないというのが正確なのだが、過去を後悔しても仕方がない。

 まずは今自分がいる地点、進む道を理解して認めなければ始まらない。


「つっても、次は何をすればいいのか…………」


 森を歩きながら考えを巡らせるがやる気が湧いて来ない。

 世界スキルを手に入れたいが、場所は各国の未開拓領域内と、また面倒ごとになりそうな予感しかない。

 ただなぁ…………行くしかないんだよなぁ。


「知ってる国だと、公国、貴国、王国、魔国か。スパイで弱かった順に行くとすると、まずは――――公国か」


 自分に言い聞かせて行動意欲を高めていき、早速目指すべき国を導き出す。

 領域内で対峙したスパイたち。

 その中でも最弱だった公国に向かい、徐々に国力が強い国にシフトしていく。

 俺はそこでスパイたちの魔力が残ってないか《探知》で探り始める。

 しばらくして、微かに残ったものを発見すると、それを増幅させ空気中の自然魔力と融合させる。

 その後、それが繋がる魔力線を道標にし、俺はそれを辿って公国へと歩を進める。

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