本当の気持ち
マックスが倒れたのは二週間前のこと。
少し大きな島の砂浜に小舟ごと運んで横にさせてあげたけど、ボクは
――どうしよう? このままじゃ死んじゃう
苦しそうに咳き込み、全身に深い傷を負い、意識も朦朧としていた彼を見た時、ボクは迷わず助けることを決めた。でもどう考えても一人じゃ無理だ。
でもこれをパパとママに相談したところで「
この大きな海の色々な場所で、
――でも……放ってなんかいられないよ!
秘密を打ち明けられる相手を探していたボクは、幼なじみのヒルダを思い出した。
彼女なら、きっと理解してくれるはずだ。
「えっ!?
「凄く弱っていて……何とか助けたいの」
「ちょっと、正気なの? ナディア!? 回復したら襲ってきたりしない?」
案の定、最初は驚きの声を上げたヒルダだったけれど、事情を説明すると真剣な表情で聞いてくれた。
『戦争』という
「そっか……もしそのマックスという男の子が私だったら、きっと同じ思いだよね?」
ヒルダが、にっこりと微笑んでくれた。
「確かに危険かもしれないわ。でも、ナディアの選択は間違ってないと思う」
ヒルダの言葉に、ボクは胸が熱くなった。
「私にできることがあったら言って。貴女の大切な人なら、私の大切な人でもあるわ」
ヒルダは毎日のように薬草や食料を分けてくれた。
彼女の両親が薬草園を営んでいることもあり、珍しい治療用の海藻なども手に入れることができた。
この島の洞窟に、使われていない空間があったのを思い出した。
不便で誰も住まない場所だけど、水中では生きていけない
「大丈夫、きっと良くなるから」
意識のないマックスに話しかけながら、ボクは必死で介抱した。
ママから教わった治療の知識を総動員して、ヒルダが持ってきてくれた特別な海藻のパックを傷口に当て、大きな海草から作った包帯を巻いていく。
身体が冷えないように、柔らかい海藻で作った寝床も用意した。
一晩中、マックスの様子を見守り続けた。
ヒルダも交代で看病を手伝ってくれた。時々うなされて苦しそうな声を上げる度に、ボクは汗を拭ってあげたり、額に冷たい貝殻を当ててあげたりした。
こうして幾つもの夜を過ごし、お陽さまが水平線の上から登り始めた頃、やっと熱が下がり始めたのか、マックスの顔色が良くなってきた。
「ナディア、この子のこと、本当に大切なのね」
疲れ切ったボクの肩に手を置きながら、ヒルダがそっと囁いた。その言葉に、ボクは無言で頷くことしかできなかった。
◆◆◆◆
それからというもの、ボクとヒルダは、毎日欠かさずマックスの看病を続けた。
朝一番に新鮮な海藻のパックを取り替え、傷口を丁寧に洗い、薬効のある貝の粉を塗る。マックスが少しでも元気になれるように、美味しい貝や魚を探して持ってきては、スープを作って飲ませた。
「ナディア、それにヒルダ……君達に助けられなかったら、僕はきっと……」
そう言って感謝の言葉を口にするマックスに、ボクは首を振った。
誰かが困っているのを見過ごすことなんてできない。それに、マックスの命が助かっただけでも、十分に報われている気がした。
日に日に回復していくマックスを見るのは、本当に嬉しかった。最初は座ることもままならなかった彼が、今では自分で食事もできるようになり、少しずつ会話もできるようになってきた。
真夏の陽射しが海面をきらきらと照らすある日、ボクは決意を固めた。長い間悩んでいたことだけど、もう後には引けない。
水中を泳ぐ度に、尾びれが水を切る感触が心地よい。
そんな海を一人漂っている傷ついた
まるで銀の糸のような輝く髪と、この碧い海のよう澄んだ瞳に、ボクはつい魅入ってしまう。マックスの髪は、月光を浴びた波のように揺らめいて、時として深海の真珠のように神秘的な輝きを放つ。
その姿は、まるで海の精のようだ。
「そんなに見ないでよ」と照れた表情を浮かべるマックスに言われ、ハッとなる自分がいる。何故か頬が赤くなっていく自分がいる。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。これが人間の言う「恋」なのだろうか?
ママやパパに言うと反対されてしまうのは目に見えていたので、机の上に置手紙を残すことに決めた。
両親の両親の顔を思い浮かべると胸が締め付けられる。
でも、今のボクには他に選択肢がなかった。
マックスの力になりたい!
そう思ってしまったんだから……
<出かけてきます。しばらく帰りません ナディア>
貝殻に刻んだ自分の置手紙を読みながら、たどたどしい文章にボクは大きく溜め息を吐いた。
海底で拾った真珠貝に、小さなサンゴの欠片で文字を刻むのは簡単な作業ではなかった。何度も失敗して、やっとこの一枚を完成させることができた。
しかし、ボクって、どうしてこう文才がないんだろう?
姉のリリアなら、もっと上手く書けただろう。
でも、独立して家を出た
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