第61話 見せたいもの
「失礼します、神官様」
蒼子と鳳珠が庭を散策していると小走りで白陽がやってきた。
白陽の後ろから白燕もついて来る。
「どうした、白陽。そんなに慌てて」
「その……実は見て頂きたいものがございます」
「見せたいもの?」
どこか落ち着かない様子で白陽は言った。
鳳珠は首を傾げる。
「不審死を遂げた一族の者がつけていた日記が出てきました。呪いに関しての記述がありましたので、何か手掛かりになればと」
白陽の言葉に鳳珠は頷く。
「分かった。見せてもらおう」
鳳珠は蒼子を抱き上げようと腕を伸ばしかけた時だ。
「姫様、よろしければ私もお見せしたいものがあるのです」
白燕が蒼子に向かって言う。
「私に?」
蒼子は首を傾げる。
「はい。先日の宴で舞や衣装に興味がおありのようでしたので、この地で伝統的な衣装や装飾品をご用意いたしました。一度、お召しになってみませんか?」
確かに、宴で見た舞は美しかったし、衣装も素敵だった。
「お父様。お父様がお仕事をしている間、お姉様と遊んでます」
蒼子の言葉に鳳珠は顔を顰める。
「しかし……」
鳳珠はちらりと白燕を見やる。
「迷惑ではないか?」
「とんでもございません。興味を持って頂けて嬉しいのです。文化は伝えていかなければ廃れて消えていきますから」
白燕はたおやかに微笑み、言う。
「ならば、そなたに任せよう。娘を頼む」
「お任せ下さい」
鳳珠が言うと白燕は小さく頭を下げた。
「ありがとう、お父様。お仕事頑張ってね」
蒼子が言うと、鳳珠は蒼子の前に膝を着き、ぎゅっと抱きしめる。
まるで片時でも離れ難いとでも言いたげな行動に二人の仲の良さが伝わってくる。
「白燕の言うことをしっかりきくのだぞ。怪我のないようにな」
「はい、お父様」
鳳珠は蒼子の頭を撫で、名残惜しそうに立ち上げる。
鳳珠は白陽と共に邸の中に入って行く。
「では参りましょうか、姫様」
「楽しみです、お姉様」
微笑む白燕に蒼子はとびっきり無邪気な笑顔でそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。