第56話 夜が明けて
「何ですって?」
翌朝、部屋に柊を呼んで昨晩の話をすると柊は当然ながら信じられないと言わんばかりの表情で固まった。
「本当だ」
鳳珠は昨日はなかった左腕の痣を袖を捲って見せた。
くっきりと蛇が巻き付いたような鱗状の痣が二重に刻まれている。
柊は蒼子に視線を向ける。
「蒼子様、一体、どうすれば良いのでしょうか?」
柊が不安そうな表情で言う。
「蛇神に手を出していないという本人の言葉を信じるなら蛇神は誰かと鳳様を勘違いしている可能性が高い。人違いしている相手が誰なのかは調べる必要がある。そして人違いであるという誤解は解かねばならない。本人の言葉を信じるのであれば」
ちなみに、この『本人』とはもちろん鳳珠を指す。
「なるほど。本人の言葉を信じるのであれば」
柊も『本人』という言葉を強調して言う。
「おい、重ねて言うが、私は蛇神に手を出した覚えはないぞ。どんなに美しくても人外は対象外だ」
鳳珠は蒼子と柊に高らかに主張した。
「ですが、白燕殿の痣とは随分と違うように見えますが…………」
それは鳳珠も思ったことだ。
白燕の痣は赤黒く、皮膚が一部爛れていて一枚一枚の鱗が大きく、腕全体に広がっていた。
しかし鳳珠の痣は鮮やかな赤で鱗模様も細かく、蛇が一匹巻き付いたような太さの輪が二つできている。
「この話は椋さんと柘榴と合流してからにする。それまでは他の者に悟られぬように」
蒼子は言う。
特に白燕には、と念を押す。
鳳珠と柊は顔を見合わせて頷く。
蒼子は朝起きてすぐに柘榴に文を書き、急ぎ合流する旨をしたためて使用人に届けるように頼んだ。
昼前には合流できるはずだ。
「失礼します。朝食のご用意ができました」
使用人が扉の外から声をかけてくる。
「分かった」
鳳珠が返事をすると使用人は速やかに下がっていく。
蒼子達は朝食をとり、五連玉池に行くために支度を済ませ、白燕と白陽の案内で五連玉池の五の池へと向かった。
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