第53話 夢から覚めて
バチンっと頬に痛みが走り、鳳珠は我に返った。
「起きたか」
上から冷ややかな声が降ってくる。
視界に入ってきたのは天井ではなく、自分に馬乗りになり顔を覗き込んでいる蒼子の姿だ。
一瞬、夢に出てきた美しい死神女と蒼子が重なって見えた。
「気分はどう?」
感情の読めない顔で蒼子は言う。
美しく愛らしい顔は似てないこともないような気もするが、どう見たって美女ではない。
手足も小さくて短いし、背も低い。
あの迫力のある怜悧な美女とは程遠い。
「もう一発……」
「いらん! 起きてるわ!」
蒼子が小さな手を振りかざしたところで鳳珠は慌てて身体を起こした。
身体を起こした鳳珠に蒼子がずいっと手を伸ばす。
小さな手が持っていたのは手巾だ。
気付けば額にじっとりと汗をかいていて不快感が押し寄せてくる。
「あぁ……助かる」
鳳珠は手巾を受け取り、額や首筋に浮かんだ汗を拭った。
「全く。とんでもないものに手を出したな」
「何のことだ?」
鳳珠は蒼子の言葉に首を傾げる。
「さっき夢であなたに迫った女のことだ」
「なっ……あれは夢じゃ……」
唖然とする鳳珠に蒼子は続ける。
「あれはだたの夢じゃない。あなたは神力によってあの女が作り出した空間に夢を通して引き摺り込まれた」
「どういうことだ?」
「寝ていたら、強い神力を感じた。私が目を覚ました時は既に寝ているあなたの意識が強い力に捕まり、別の空間に連れ込まれていた。私はあなたの意識を外から連れ戻しただけ」
「つまりは……あの夢はただの夢じゃないということだな? 私に恨みがある女から見せられていたものだと?」
「簡単に言えばそういうことだ」
完全に話が掴めたわけではないが、あの夢はただの悪夢ではないということだけは鳳珠の中ではっきり理解できた。
「それで、あの女は一体何者なんだ? 私に恨みがあるようなことを言っていたが、人違いだ。全く身に覚えがない」
「記憶喪失か?」
「違う! 事実無根だ!」
鳳珠は強く訴えた。
すると蒼子は首を傾げて訝しむ。
そして目を閉じ、何かを考えるような顔をしたかと思いきや、鋭い眼光を鳳珠に向ける。
「その手は…………」
蒼子の視線は鳳珠の左手首の辺りに注がれている。
「手?」
鳳珠は何かと思い、自分の手首に視線を落とし、絶句する。
「な、何だ、これは⁉」
白い手首に鱗の模様が刻まれていた。
細かな鱗模様は鮮やかな赤色をしており、ぐるり、ぐるりと二重に鳳珠の手首に巻き付いている。
白燕の痣と似ているが、白燕のものよりも色鮮やかで細かな鱗模様が生々しく、二重に巻かれた痣により強い執着心のようなものを感じる。
「どういうことだ……寝る前までは確かに何もなかったはず……」
入浴をして着替えた時には何もなかった。
急に発現した鱗状の痣に鳳珠は戸惑う。
「とんでもない相手に目を付けられたな」
大きな溜息を着く蒼子に鳳珠は首を傾げる。
「とんでもない? あの女は一体、何者なんだ?」
そして再度、問う。
すると蒼子は厳しい表情でこう言った。
「あれは神。呂家を呪う蛇神だ」
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