第21話 神力持ち
「戻ったか」
鳳珠達が待つ部屋に戻った蒼子は部屋の前をうろついていた鳳珠に柘榴から優しく手渡される。
「降ろして。私は子供じゃない」
「子供は子供らしく抱かれていろ」
柘榴には抱かれていたではないか、と鳳珠は付け加える。
蒼子にとって柘榴は従者だ。
従者である柘榴と仮にも王族の鳳珠と同じ扱いはできないに決まっている。
それに、移動手段として柘榴は手を貸してくれているが、鳳珠は完全に蒼子を子供扱いしている。
それが蒼子には不満だ。
鳳珠は子供呼ばわりされて頬を膨らます蒼子を抱き上げたまま部屋の中に入る。
その様子を柘榴は微笑ましそうな目で見ているのも蒼子は気に入らなかった。
「白燕、蒼子をありがとう」
ちらりと鳳珠が白燕の方を振り返って言う。
私は子供じゃないのに。
これでは預け先から親元に返された子供のようではないか。
何度言っても直す気がないらしい鳳珠の子ども扱いに蒼子はムカムカした。
「ん? 何をくっつけてきたんだ?」
そう言って鳳珠が蒼子の髪に触れる。
黒い髪を一房、掬い上げて、指を絡ませた。
ゴミがついていたようだ。
「じっとしていろ」
艶っぽいのに、清々しさのある声が蒼子の耳に触れる。
鳳珠の声は嫌いじゃない。
優しく髪に触れる指も、頭を撫でる手も心地が良い。
「取れたぞ」
そう言って優しく微笑むものだから、最近はなんだかんだ子供扱いされるのも悪くないかもしれないと思っている自分がいる。
「子供はどこにでも潜り込むからな。服は汚していないか?」
鳳珠は蒼子の服に汚れや解れがないか確認する。
その様子に穏やかだった胸の中に苛立ちが生まれる。
「私は子供じゃない」
鳳珠をねめつけるが、鳳珠はそんなものは気にも留めず、長椅子に腰を降ろして蒼子をそのまま膝に乗せて、焼き菓子を一つ蒼子の口に放り込んで黙らせた。
「地図を広げてくれ」
鳳珠の言葉に従い、柘榴が地図を広げる。
「ここは?」
鳳珠も蒼子と同じく、朱色でバツ印のついた場所が気になったようだ。
「二十四年前に火事でなくなった集落です」
白燕は蒼子の時と同様に説明をする。
この邸は町の中心を流れる川の右岸に沿って軒を連ねる建物の一つだ。
呂家一族の邸は右岸に沿って並び、川を渡った左岸には商店などが並び、そこから北に向かって少し歩けば夜に華やぐ店が多く並ぶ。
民家は少し小高くなった場所に多く並んでいて、田畑も川よりも高い位置にある。
「これが蛇神の言伝えがある五連玉池か?」
地図を指さし、鳳珠は問う。
「はい。正確に言えば、蛇神様の言伝えがあるのは池ではなく、滝の方です。ここですね」
白燕は地図上で滝が描かれた場所を指す。
「滝の側に小さな社があります。誰も怖くて近寄らないので手入れもされず朽ちていますが」
「呂家は昔、蛇神を退治した一族の末裔という話は本当ですか?」
聞いたのは柊だ。
「はい。そう言い伝えられております。そのせいで我々呂家は奇形や短命な者がほとんどです」
一族の奇形や短命は蛇神の呪いだと昔から言い伝えられていると白燕は言う。
「呪いと一緒に神力も授かったと聞いていますが」
柊は警戒心を見せる。
鳳珠に仕える双子は主が神力によって危険に晒されないかを危惧している。
王印には神力を無効化する力があり、王印を持つ鳳珠には神力は効かない。
そのはずなのだが、本当に無効化できるのか試したところ、椋の攻撃をもろに喰らったらしい。
どうやら王印の力を完全に操れるわけではないようで、神力持ちがいる場所では気が抜けないとのことだ。
「確かに、神力持ちも一代に一人か二人はおります。ですが、最近では神殿に上がれるほどの者は生まれておりません」
「あなたも神力をお持ちですね?」
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