第14話 警戒

「で、どういうつもりだ?」


 蒼子は自分を抱きかかえる鳳珠に問う。

 今は白燕の案内で邸の中を移動している最中だ。


 邸は柱や梁の色が濃く、年季が入っているように見えるが扉や仕切り、壁は比較的新しい。

 元々あった古い邸を戸や仕切りを新しくして使っているようだ。

 調度品などは古いものと新しいものが混ざっているが色味や雰囲気は統一されていて、違和感がない。


 一階は広い部屋が多く、二階は狭いが部屋数が多く、蒼子達には二階の奥まった場所に一人一部屋ずつ宛がわれた。


 偽大神官様の鳳珠には二階でもっとも広く豪華な部屋を用意してくれたようで、これから向かうのはその部屋である。


「何がだ?」


 すっとぼけた様子で鳳珠は言う。


「誰が、誰の娘だと?」


 蒼子が不満気に言う。


「お前が、私の、娘だ」

「何故そうなる。私の父は面白味はないが不誠実な男じゃない」

「おい、私が不誠実な男のように言うな」


 蒼子の言葉に今度は鳳珠が不満そうに言う。


「いいか、蒼子。お前、絶対に一人になるなよ」

「話を逸らすな」

「逸れていない」


 本題から話を逸らそうとする鳳珠に蒼子は言うが、返ってきた鳳珠の声音が真剣味を帯びていて、蒼子は押し黙る。


「私はお前よりも、どの王族よりも世の中を知っている。宮の外で色んな人間を見てきた。その私の勘だが、呂鄭はロクな人間じゃない」


 いつも飄々としている鳳珠の瞳の奥が鋭く光っている。

 警戒しているのだと、蒼子は悟る。


 確かに、人に手を上げる者にロクな者はいない。

 言葉による話し合いができない故に暴力で相手を黙らせて支配しようとする。


 蒼子は他人の尊厳を踏みにじり、傍若無人に振舞う輩が大嫌いだ。


 あの呂鄭という男もその類だということは既に察している。

 しかし、客人に対してそういった振舞いをするほど馬鹿にも思えない。


 何せ、相手は帝から直々に命を受けてはるばるやって来た(偽)大神官御一行である。

 必要以上に警戒するとこちらがやりにくくなることもある。

 そのことを口にしようとすると鳳珠は言った。

 

「この邸の人間は信用できない。絶対に一人になるな。いいな?」


 いつもよりも低い鳳珠の声が蒼子の耳元で響く。

 緊迫感を孕む声音で鳳珠が言うので蒼子は反論することはしなかった。

 



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