第3話 奇形の一族


「そもそも、呂家の奇形や欠損、痣は今に始まったことじゃないだろう。今更何故騒ぎ立てる?」

「蒼子、そなたは呂家の『雪柳の姫』を知っているかえ?」

「名だけは聞いたことがあるな」


 確か、呂鴈の姪で舞の名手だと耳にしたことがある。


「宴となればあちこちにお呼びがかかる呂家の舞姫だ。奇形や欠損などの身体的特徴が目立つ者が多い呂家で唯一完璧な姫だ。元々、呂家には美男美女が多いが、その姫は群を抜いて美しい」


 呂家は奇形の出る家系として知られているが、容姿の優れたものが非常に多いこととして有名なのである。


 身体的特徴の強い者は爪弾きにあうことも多いが、この宮廷で呂家がその地位を維持できたのはその優れた容姿によるものも大きい。


「その姫に蛇神の求婚痣が現れたと当主である呂鴈が騒いでいるようだ。姫が蛇神に連れて行かれるのではないか、とな」


 楽しそうに声を弾ませて天倫は言う。


「大袈裟だ」


 楽しそうな天倫に対して蒼子は興味なさげに答える。


「涼し気な顔をしおって。本当はそなたも気になるのではないか? ここ二十五年余りで、呂家は何人も不可解な死を遂げている。これも偏に呪いのせいだと専らの噂じゃ」


 馬鹿にしたように答えた蒼子に天倫は言う。

 蒼子は天倫を見て眉を顰めた。


 口元を扇で隠しているが、目元がにやついている。

 嫌な予感しかしない。


「蛇神が原因ではないと思うが」


 蒼子はとりあえず自分の意見を述べておく。


 蛇神を倒した昔話があったところに、たまたま身体に欠損がある者が生まれ、たまたま身体に痣があり、たまたまその痣が蛇に巻き付かれたような痕に見えた。そしてたまたまそんなことが続いた。


「さっきも言ったが、身体の奇形や欠損を伴う人間は身近にいないだけで一定数は存在する。痣も同じこと。安直に呪いと結びつけることはできない」


 蒼子の言葉に天倫は溜息をつく。


「そなたは理論的過ぎてつまらぬ。もう少し興奮したらどうじゃ?」


 こうやって暇人の会話のネタにされて噂は面白おかしく広まっていくのだな、と蒼子はしみじみ思った。


「蒼子様は呪いはないとお考えなのですね」


 少し残念そうに桜嵐は言う。


「呪い自体は存在する。しかし、呂家の問題が蛇神の呪いが原因であると結びつけることはできない」


 蒼子がはっきりと言うと天倫は面白くなさそうな顔をする。


「本当に面白くないのう」


 そう言って天倫は煙管を咥え直す。


「神の呪いよりも人間の欲望の方がはるかに醜悪でおぞましく、そして身近にある。神の呪いなど可愛いものだ」

「人間の欲望…………そうかもしれませんね」


 蒼子の言葉に桜嵐は俯き加減で呟いた。

 その姿が蒼子はやけに印象に残ったのである。

 

 

 


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