第12話 妄想NTR

「鈴城! ボクの梨衣になにをしたっ!」


 木崎はいつもの余裕ある態度をすっかり忘れ、俺に息とつばがかかる距離で甘いマスクがゆがんでしまうくらい激高しながら叫んだ。


「……」


 俺はなんも言えず、黙りこんでしまう。


 いやいや、伊集院もおかしいが木崎、おまえも相当頭がいかれちまってる。彼女持ちなのにすでに伊集院が木崎の中では自分の女になってるんだから……。


 俺が木崎の自信過剰さに呆れていると、私を巡って二人で言い争うのは止めて! とばかりに割って入ってきた伊集院は信じられないことを言ってのけた。


「やめて、木崎くん。私……身も心も鈴城くんのものなの。あの夜に私は鈴城くんに処女を強引に奪われてしまって、彼なしじゃ生きていけない身体にされてしまったのよ。もう、あの頃には戻れないから……」


 えっ!?


 なに言ってんだ、伊集院?


 あの夜って、伊集院の夢の中ですよね?


 俺を置いてけぼりに勝手に話を進める伊集院のNTR宣言にさらっさらのサラサーティヘアの頭を抱えて、苦悶くもんの表情を浮かべる木崎。


「なんだと……!? ボクの梨衣は陰キャモブの鈴城に寝取られてたなんて。鈴城の奴がキミを脅して寝取ったに違いない! そうでもなければ、鈴城と梨衣がそんなただれた関係になるわけがないんだ!」


 ただれたって、仮にそうであっても彼女持ちの木崎が伊集院といちゃつくよりよっぽど健全だと思うんたが、妄想伊集院と勘違い木崎にいちいち突っ込むのは砂漠に水を撒くくらい不毛に思えてきて仕方ない。


 伊集院は頬を桜色に染めつつ、とろんととろけた瞳で俺を見つめてきて、どきりとした。


「鈴城くんに抱かれてるときだけ、しあわせを感じちゃう。もう元には戻れそうにないよ」


 伊集院は木崎とまるでミュージカルみたいにやり取りを繰り広げているんだが、伊集院の妄想を真に受け、木崎はがくりと肩を落としてしまっていた。


 つか、なに信じてんだよ、木崎!


 どこに行った、おまえのいつもの自信は。


 木崎は伊集院の寝取られ宣言でがっくりと崩れ落ちるように跪いたかと思うと、思いきり両の拳を地面に何度も叩きつけて悔しがっていた。


「そんなそんなそんな、チクショォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


「鈴城くんに抱かれる度に私、どんどんえっちになっちゃうの。鈴城くんの前では、えっちなお店のお姉さんみたいにお股を広げておねだりしちゃう。鈴城くん……見た目と違って夜はスゴいから」


 もうとっくに打ちのめされ、地面に這いつくばるイケメンに伊集院は耳元で幻影の俺の性技の素晴らしさをささやいていて、木崎は発狂している。


「いやだぁぁぁぁーーーっ! 梨衣が他の男に抱かれるなんてぇぇぇぇーーーーーっ!!!」


 いや伊集院、死体蹴りはやめてあげて。


 木崎は四つん這いのまま、涙も鼻水もあり得ないくらい垂れ流して、正直汚なく近寄りたくなかった。


 木崎みたいなイケメンでもメンタルが崩壊して、涙と鼻水とまぶたの腫れやらで顔面がぐちゃぐちゃになるんだなぁ、って生まれて初めて知る。


「お、おい……鈴城の言うことなんて間に受けるなよ! ちょっと休めば良くなるって」

「うるさいっ! ボクのことなんて放っておいてくれ!」


 心配した浜田がいまさらながら、ガチに慟哭どうこくする木崎の背中をさすって慰めるが、浜田の手を振り払ってしまっていた。


 つか俺、嘘どころかなんも言ってねえんだけど。


「間男に成り下がった鈴城っ! 梨衣を奪った貴様をボクは絶対に許さないからな!」


 成り下がるもなにも俺は底辺なんだが。それにまだキスすらしてないのに間男って。


 俺はあまりに木崎が哀れだったので、そっと本音を漏らしていた。


「正直さ、熨斗のしつき、いや裸にリボンをつけて、木崎に伊集院を返したい」


 あれだ、クリスマスのえっちなイラストであるおっぱいとすじをリボンを結んで隠したプレゼントは私みたいな奴。


「なんだと!? バカな……そんな簡単に梨衣をやり捨てるだけじゃく、すでに梨衣にそんな破廉恥なプレイまでさせているだと!?」


 いやしてないしてない。


 小声でささやいたつもりが伊集院に聞かれており、またわけのわからないことを言いだす。


「おいしくい食べられちゃれました、テヘッ。鈴城くんは焦らしながら、リボンを解いてきてとってもえっちで、大事なところを隠したリボンが湿っぽくなっちゃったの」


 伊集院は言ってて、自分で恥ずかしくなったのか、目を閉じて真っ赤になり、身悶みもだえしていた。


「は?」


 俺、伊集院の夢の中でそんなヤバいことしてたの?


 少し気になって木崎の方を見ると、白眼を剥いて口がだらしなく開いており、そこらからふわーっと丸みを帯びた白い煙が空へと舞い上がっていく。


「おいっ、木崎っ!?」


 浜田はショックからか気絶していた木崎を慌てて後ろから脇を抱えて、運ぼうとしていた。意外と友情みたいなのには厚い奴ではあるらしい。


 木崎たちが俺たちの前からフェードアウトしてゆくと、伊集院は俺に駆け寄ってきて抱きついてしまっていた。


「鈴城くん……わたしぃ怖かったよぉ」


 抱きついた伊集院は涙を流しながら上目遣いで訴え、俺に甘えてきていたのだが素直によろこぶことができない。


「俺は伊集院の方がよっぽど怖いよ……」

「んもう、鈴城くんってばツンデレさんなんだから!」

「そんなんじゃねえよ……」


 泣き止んだ伊集院は俺のほっぺたを指でつんとつついて、微笑んだ笑顔がかわいく思えてしまい、思わず伊集院から顔を背けた。


 伊集院にハグされた俺を見て中村がゆっくりと近づいてくる。


「良かった、良かった。うっうっ、梨衣に好きな男の子ができて」


 そして中村は思わず涙を流し、伊集院の恋が叶ったことをよろこんでいるのだが、これって公式的には木崎から伊集院をエロテクで寝取ったということになってるんだよな?


 俺、マジ最低男じゃん!


「おいおい、鈴城。おまえ、すげえな! 梨衣を木崎から寝取ったのかよ。見直したぜ!」


 水上が俺を誉めてくるのだが、むしろ見下げられるようなことなんだが。


「おーい、そろそろ戻る時間だぞ!」


 水上から追い払われていた玉田と太田が戻ってきて、午前中の自由時間が終了しそうなことを知らせていた。


 午後から校外学習を兼ねた写生大会なのである。


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ヤンデレが加速した梨衣たん、イケメンから梨衣を寝取ったことになってしまった経世、二人のいちゃらぶがみたいというご要望がありましたら、フォロー、ご評価お願いいたします。


第9.5話 旧友【梨衣目線】

https://kakuyomu.jp/users/touikai/news/16817330655319121277


リンクは梨衣目線のバス車内のやり取りと委員長(中村栞)と和解のSSです。

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