第29話


 魔法騎士だった――『もの』


「どういう意味だよ、それ……」

 意味がわからず、健斗は呆然と呟く。


「だから、そういう意味だよ――鎖状天理(さじょうてんり)」

 京介は淡々と告げると、左手で小さな魔法陣を描いた。


 魔法陣から出現する四本の黄色の鎖。

 倒れる思念体の四肢を拘束する。


 拘束されるも、思念体は僅かながらも動かない。

 まるで、その動力源を失った様に――。


「京介……」

 健斗はその光景に恐怖を覚えた。

 棘のある魔力。京介は怒っていたのだ。


 刀身に纏われる白い瘴気。

 高濃度の光属性が具現化された様。


「さらばだ。――かつて、人であった『もの』よ」

 白椿を振り上げると、空間に白き波紋が伝わった。


 おそらく、この一撃は今までの京介の一撃の中で最も強いのだろう。

 健斗はその魔力を肌で感じ確信する。


 思念体は未だに仰向けのまま。

 抵抗する素振りさえ見せない。


 刮目。京介は意気込む様に目を見開くと、白椿を勢い良く振りかざした。


 白椿の一振りはアスファルトの地面を崩し、周囲は砂煙で充満する。


「――斬翔」

 京介は一振りの斬翔でその砂煙を一掃する。


 破壊された思念体。

 健斗はそんな晴れた景色を想像していた。


「なっ!?」

 景色が晴れるなり、真っ先に驚いたのは京介だった。

 コンマ数秒遅れで、健斗も同じ表情をしている。


 ありえない――。何が起きたのだ――。

 健斗は無言で瞬きを繰り返す。


 そこに思念体が『いなかった』のだ。


 消滅したのか。

 ――いや、その痕跡すら感じないのはおかしい。


「――っ!」

 何かを感じ取った様に京介は西側を向いた。


 数メートル先、空間に充満する薄い青い瘴気。

 次第に集束していき、それは二人が知る思念体になった。


「やはり、固体では無いのか――」

 京介は思念体を睨む様に見つめると、確信した様に大きく息を吐いた。


「結局、あの思念体は何なの?」

「おそらく、魔法騎士の魔力を動力源にしている――いや、あれは魔力の塊そのものだよ」

「魔力の塊?」

「ああそうさ。魔力が纏まって人に見えるだけのもの。実像の無い思念体。まさに、『何か』だよ」


「そんなに膨大な魔力なのか……」

「膨大では無いさ。あれは魔力の源をそのまま動力源にしているんだよ」」


「魔力の源って、魔力と何が違うの?」

「言わば、心臓だよ」


「心臓……。心臓と言うことは、その誰かの魔力の心臓ってこと?」

「そうだ。つまり、その人物は魔力を抜かれたことになる」


「抜かれる――、抜かれるのか」

 健斗にはそのニュアンスがいまいち想像出来なかった。

「さて、ここからが問題だよ」


「問題?」

 すでにこの現状が大きな問題のはずだが。


「その抜かれた者は『生きている』のか『死んでいる』のか」

 健斗に問う京介は、すでに答えを見つけている様に見えた。


 生きている者から魔力を抜いたのか。

 死んでいる者から魔力を抜いたのか。


 どちらにせよ、それは非道徳的な行いである。


 健斗は言葉にならない怒りがこみ上げた。

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魔法都市の魔法騎士 桜木 澪 @mio_sakuragi

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