第28話


 思念体から放たれた数多の灰色の羽。

 地面に突き刺さる羽たち。


 そこに人がいたらどうなっていたか、

 そんな最悪なシナリオを健斗は想像してしまった。


 モードが切り替わった様に、禍々しい魔力を纏う思念体。

 現実味を帯びるその力。魔力とは、常にその権力を示すのだ。


「闇属性と波動――か。これは厄介だな」

 京介はそう言うと、白椿を一度、鞘へとしまった。

 大きく息を吐き、呼吸を――魔力を整える。

 そして、息を止め、集中力を研ぎ澄ませ――一閃。


 縦振りの白椿の刀身から放たれた白き斬翔。

 純度の高い光属性の斬翔。


 その魔力の高さを検知したのか、

 思念体は右手を白き斬撃へ向け、波動の壁を展開する。


 衝撃波が具現化するほどの高密度の衝撃。

 その凝縮された衝撃に当たれば、無傷ではすまない。

 健斗は恐怖を示す様にゆっくりと息を飲んだ。


 直撃。轟音と絶大な衝撃を放ち――相殺する。

 その高密度の衝撃故か、空間が未だに震えていた。


「大尉以上はあるな――」

「大尉?」

「魔法騎士の階級だよ」

「ああ、なるほど」

 確か、試験監督だった神崎の階級は少尉。

 その実力を遥かに超えていると言うことだ。


「にしても、不自然だな」

 上空にいる思念体へ向け、何度も斬翔を放ちながら、京介は解せない顔をする。


「不自然?」

「不自然だよ――本当に」

 相当思っているのか、次第に無間のしわが深くなっていった。


 思念体は右手を向け、銃弾ほどの小ささの衝撃波を出現させる。

 まるでそれは法撃魔法。

 右手から放たれる衝撃波――衝撃弾は、白き斬翔にぶつかった瞬間に弾け飛ぶ。


「どこが?」

 衝撃弾を眺め、健斗は感心していた。

 そんな技もあるのか。しかし、食らえば――。悪寒が健斗を襲う。


「俺たちへと攻めてこないことだよ。ほとんどが俺の攻撃への迎撃だ」

「あー、確かに」

 現に今も京介の斬翔を防ぐために、波動を放っている。

 攻めてこないからこそ、健斗たちは会話をする余裕があるのだ。

「何かを待っているのか、それとも――」

 そう言うと京介は気がついた顔で、右手を思念体へと向けた。


「駆れ――断空」


 右手から放たれる白き衝撃波。

 伝達する様な速度で、白き衝撃波は思念体へと向かっていく。

 

 迫る白き衝撃波に思念体は衝撃弾を放った。

 迫る白き衝撃波を前に衝撃弾は一瞬にして消滅し、白き衝撃波は思念体を襲う。

 

 爆竹が爆発した様な音を立て、高速に振動する――思念体。

 次第に思念体の灰色の羽は消滅していき、思念体は自重落下する。

 そして、受け身を取ることなく、地面に落下した。


「――やはり、対応が違うな」

 その一部始終に京介は随時険しい表情だった。


「対応が違うって?」

 京介も似た様な技が使えるのか。

 ――それも思念体より強い衝撃波を。

 その様子だと、その波動と言う技は京介も使える様だ。


「灰色の翼が出現する前と後だよ。出現した後は、より人に近い」

「前は浮遊していたもんね」

 京介の攻撃に思念体は落下したのだ。

 最初は浮遊していたはずなのに。


「より一層わからんな。あれが何なのか。でもまあ、破壊するさ。――すでにあの思念体は一般人に危害を及ぼしたのだから」

 そう言うと京介は白椿を右に振り、思念体へとゆっくりと歩いて行く。


 人の様に仰向けに倒れる思念体。

 その外形は次第に人の輪郭を――形成していく。


 形成されていく輪郭―白い肌と四肢、黒い髪。

 その見た目は男性の様だった。


 刮目。

 京介は何かに気づいた様に目を見開いた。


 一瞬。

 膨大な京介の魔力が解放される。

 まるで、感情が昂った様に。


「やはり――。やはり、そうか――」

 その膨大な魔力は、一瞬にして刀身に集束された。


 光り輝く白椿の刀身。

 不思議と京介が本気であると健斗は理解する。


 ――これは魔法騎士だった『もの』だよ。


 そう言った京介の眼差しには、紛れも無い殺意があった。


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