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ーーーーパセオ通り。
イタリア語で散歩道と呼ばれるその場所は、雑居ビルに挟まれている。
路面が石畳でできており、広い歩道に街路樹、ベンチが配置されている。
この時間帯になると仄かな街灯に照らされ、場の空気も相まってか、道行く人の赤みがかった頬が溶け込んでいく。
そんな洒落た道に、一箇所だけ毛色が異なる場所がある。
赤く灯る提灯が並ぶ門をくぐれば、小さな小屋がいくつも隣接している。
中から賑やかな声が漏れ出ており、居心地の良さがにじみ出ている。
外ではテントが設置され、その下で客がテーブルを囲み、酒を片手に談笑している。
ここは、屋台村。
居酒屋や焼き鳥屋などが軒並び、手軽に飲めて美味な食事にありつけられる人気スポットだ。
「ちょっくらタバコ吸ってきまァす」
「あいよォ」
ガラッと裏口の戸を開けて出てきたのは、頭にタオルを巻いた青年。
タオルからはみ出ている癖の強い銀髪は、目元まで伸びており、黒い スタッフTシャツの下に五分袖インナー、腰に前掛けをしていた。
門の外へ行き、ポケットからタバコを取り出して口にくわえる。
左手の2つの指輪がオイルライターの火に照らされ、夜空を見上げながら煙を吐く。
背後からご機嫌な客の声が聞こえてきて、こちらも気分が和んでくる。
これを聞いていると心が満たされていくため、非常にやりがいがある。
青年が心地よく浸っていると、向こうで空気が乱れたのを感じ取った。
何かに追われているのか、男性が怯えた表情でこちらに向かってくる。
すると、街角からこの辺では見かけない少女が勢いよく飛び出し、男性に目をつける。
「待ちなさいッ!!」
大声で言い放つが、男性 が応じる様子はない。
何やらただ事ではなさそうだ。
その時、少女の後に遅れてきた面子を目にした途端 、一瞬にして事態を把握することができた。
「…ふッ」
不意に鼻で笑い、タバコをくわえながら立ち尽くしていると、男性が青年の前を駆け抜けようとした。
次の瞬間ーーー―。
「ぐぶッ!?」
男性が顔面から盛大に
「いつつ…」
顔を強打し、涙目で面を上げては、周囲を見渡した。
何かにつまずいたのかと思ったが、路面には何もなく、転ぶ際、足に違和感など全くなかった。
なぜ自分は転んだのかが理解できず、突然のアクシデントに頭が混乱する中、青年は微動だにせず、じっと彼を見下ろしていた。
すると、背後から迫ってくる足音に気づき、慌てて立ち上がるが、今度はその場で
「がッはッ!?」
勢いよく腰を打ってしまい、腰に手を当てて悶え苦しんでいる間に、鈴音が追いついた。
何、これ…!?
軽く息切れをし、この状況に理解しようにも頭が回らない。
遠くから見た時は、この人の前を通り過ぎようとした途端、勢いよくコケた。
この人が足をかけたのかとも思ったが、そんな素振りは一切なく、ただタバコを吸っていただけだし。
そしたら今度は、その場で一回転し出すし…。
倒れている男性に目をやり、冷静に思考を巡らせるが、結局、一つの結論しか導けなかった。
この人、
鈴音は、目線を合わせぬ為に、帽子のツバで相手の口元までしか上げなかった。
近くで見ると未来より身長があり、細身だが典型的な細マッチョ 感がある。
タバコを持った左手には、中指と小指に羽を模した重厚感のあるシルバーリング。
長ズボンにレザーサンダルとラフな格好だが、体格も相まって少々威圧感がある。
「
「えッ!?」
背後からナベショーが名を呼び、青年がそれに対し反応した。
「おう、ナベショー」
カイと呼ばれる青年は、気軽に挨拶を交わし、その後も続々と部員が集まってきた。
「…ナベショーの知り合い?」
「知り合いも何もーーーーって、その前にケータッ!
早く済ませちまうべ!」
「ああ、はいはい」
奥から出てきたケータが男性の前でしゃがみ込むと、相手は小さく悲鳴を上げて震えだす。
「怖がらなくていいですよ。
リラックスしてください」
そう言うと、左目を軽く閉じて、相手の肩に手を置いた。
肩から蒸気が吹き出し、男性は、白目をむきながら気の抜けた声を口から漏らして見せ、やがて脱力感でまた地面に倒れた。
「あい、お疲れェ」
カイは煙を吐き、ケータに労いの言葉を送る。
その後、伸びた男性は、ケータとナベショーによって近くのベンチに運ばれ、ゆっくりと横にした。
端から見れば、酔っ払いがベンチで泥のように寝ている姿にしか見えない。
「お疲れ様です」
「久しぶりですね。カイさん」
「おう、直樹に未来。
それと志保も久しぶり」
一人一人に挨拶をし、志保も軽く会釈するところを見ると、みんな顔見知りのようだ。
「星さん、紹介するよ。
オレ等の先輩で、特設帰宅部“初代”部長だよ」
KEEP OUT 嘉久見 嶺志 @kisaraghi
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