シャル、なんかやっちゃいました?


「ありがとうございます、ユリウス様。これのおかげで、計画が進められそうです」


 自分がまとめたリストを見るのに飽きて、またエルビットをあやし始めたユリウスに向かって、シャルは深々と頭を下げる。

 このリストをモーリスやジャンポールに見せにいって、また計画への協力を頼みに行くのだ。

 

 

 計画の方も、この冬の間にさらに洗練させた。

 

 より正確な時計を作れるようになったのだから、やはり最初の基準となる単位は時間が良いだろう。

 ペリランド式日時計で、棒の影が一周する時間を何分割かすれば、秒に相当する単位が得られる。


 秒から長さの単位――メートルを得るには、振り子を使えば良い。

 振り子が一往復するのにかかる時間は、振り子の長さに依存するので、そこから時間と長さの関係式を得られる。

 長さが定まれば面積、体積、さらに『体積がこれぐらいの〇〇の重さ』とすることで重さも決められる。


 野乃の持つ、現代日本の科学知識からするとガバガバなところもあるが、この世界で人々を納得させるには十分なはずだ。



 さあ、モーリスとジャンポールのところへ……


 

「シャル、いるか?」

 

「はい?」

 まさにシャルが開けようとしたドアが開いて、モーリスが現れた。


「うむ、シャルに、べネイルからの誘いが来ているのだ」


 ……え? べネイル? 王都の?


「シャルさん、私が説明します」

 モーリスの後ろから現れたのはジャンポール。

 それに気づいたのか、ユリウスが姿勢を正して起立する。


「実は、シャルさん考案のペリランド式日時計が、王都の研究者たちの目にとまりましてね」

 モートン男爵家はもちろん、今ではセーヨンの至るところで見かけるようになったペリランド式日時計。

 実際商会にも、他の街からの注文がちらほら来るようになっていた。

 するとセーヨンを訪れた貴族の人々が、『あの街のあちこちにある物体はなんだ』とジャンポールに尋ねる。

 そこから、『画期的な時計がある』という噂が貴族階級の中に広まっていたのだ。


「それで、王城に是非その日時計を持ってきていただいて、色々と調べたいと……」


 まさかそんなことになるとは。

 シャルは自分のやったことに驚きを隠せない。

 ……っていうか、正確な時計をみんなそんなに求めてたの?

 

 極端な話、シャルのやったことは『日時計の棒を北極星に向けて傾ける』ただそれだけである。

 それだけで、時計の正確性がぐんと上がり、時間をより厳密に知れるようになった。


 ――もしかしたら、歴史に名だたる発明家の気持ちってこれなのかしら。



「どうだろう、シャル。商会としては、願ってもない機会なのだが」

「もちろん、謹んでお誘いをお受けいたします」


 モーリスの問いに、シャルは食い気味に答える。


 予定変更だ。『メートル法計画(仮)』は、王都でもう一度お話する。

 多くの人、それも研究者のような話がわかりそうな人に、直接訴える。



 ……降って湧いた大チャンスの前に、シャルは気持ちの高ぶりを抑えきれなかった。

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