chapter 6-4:中る事無く

嫌な予感がした。

ほんの些細なことだったけど、妙に気になってしまう。

辺りを見回すと、同じようにしていたトイナと目が合った。

嫌な予感がしたのは、向こうも同じだったみたいなので。

他の使用人に旦那様達を任せ。

二人、急いで帰路を走っていく。

ただの思い過ごしであって欲しい。

閉じた門も、玄関も妙に重々しく。

今まで見たことの無いほどの異質な雰囲気だ。

ただ。

この広い屋敷には二人しかいないのだから。

こんなに静かなのも、人の気配が無いのも。

当たり前なのだ。

「お嬢……エルンー?ラグネットー?」

「今帰った。どこにいるんだー?」

放つ声は、どちらも震えていた。

二人しかいないにしても。

屋敷内は、怖いほど静まり返っていて。

早く探さなくては。

急ぎつつも、細かい道を見逃さないように。

屋敷の事は把握しているはずなのに。

どれだけ探しても見つからない。

いや、見つけていないのだ。

だって、信じたくないから。

壁にまで広がる鮮血と、生暖かい空気を。

折り重なった人影。

もう助かる見込みが無いのは、ありありと分かってる。

「お嬢様っ!!お嬢様ぁっ!!」

隣りで駆け出したトイナを、ただ見つめることしかできずに。

こんな事になるのなら。

もっとちゃんと。

言葉にしておけばよかったなぁ。

言いたいことがあったんだ。

沢山の事を、言い残していたんだ。

ふらふらと近寄って、側にしゃがみこみ。

最後までエルンの事を守ろうとしてくれていたその身体を撫でて。

もう二度と見れない赤色の瞳を想いながら。

そっと瞼にキスをして。

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ウーロック家の悪魔四姉妹 蕨 柘榴 @warabeeeeam

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