chapter 6-3:十三秒
嫌な予感がした。
ほんの些細なことだったけど、妙に気になってしまう。
辺りを見回すと、同じようにしていたスピネリと目が合った。
嫌な予感がしたのは、向こうも同じだったみたいなので。
他の使用人にご主人様を任せ。
二人、急いで帰路を走っていく。
ただの思い過ごしであって欲しい。
目の前の門を、玄関を開けるのが、嫌に重く感じた。
大丈夫。
だって、この広い屋敷には二人しかいないのだから。
こんなに静かなのも。
人の気配が無いのも。
当たり前なのだから。
「お嬢……エルンー?ラグネットー?」
「今帰った。どこにいるんだー?」
放つ声は、どちらも震えていた。
二人しかいないにしても。
屋敷内は、怖いほど静まり返っていたからだ。
早く探さなくては。
街を戻ってきたときのように、全力疾走。
いくつか角を曲がっていくと。
濃くなっていく、鉄の匂い。
そんなわけない。
折り重なった人影。
そんなわけない。
壁にまで広がる鮮血と、生暖かい空気。
投げ出された手足は、生気を失い、白くなっていて。
そんな中で、エルンの手が、僅かに動いたように見えた。
「お嬢様っ!!お嬢様ぁっ!!」
駆け寄っていくその時間すら惜しい。
こちらをわずかに見つめ、笑ってくれたのに。
側に寄る頃には、表情は消さっていて。
何もかもが遅すぎたのだ。
助けに来るのも、思いを伝えるのも。
綺麗な青色だった瞳には。
もう、光は届かない。
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