3月28日 ブタメン(とんこつ味)

 私は普段、カップ麺の類をほとんど食べない。

 昨日のり弁をパクパク食べていることからもわかる通り、特別健康に気を使っているから、というわけではない。むしろその手の意識は低い方である。

 では何故なのかといえば、まず私は、結構な猫舌である。カップ麺というのはお湯を入れて三分、熱々を啜るものである。麺はさておき、あのたっぷりのスープ。あれで何度口内をベロベロにしたことか。スープがそこそこ冷めるまで待っていると、今度は麺が伸びてしまう。生麺ならまだしも、伸びた乾麺はなんともいえぬ悲しさがある。そしてそのスープ、だいたいが私には塩気が強過ぎる。どうにか食べ終わった後の喉の渇きっぷっりったらない。

 このような経験からあまりカップ麺、特にカップラーメンは久しく食べていなかった。湯を捨てるカップ焼きそばを、ごくたまに食べるくらい。

 しかし昨夜ツイッターで、とあるフォロワーより次のようなことを聞いたのだ。


「福岡から関東に異動すると口に合う豚骨ラーメンがなかなか無くて、探してみた結果、ブタメンが最も福岡豚骨ラーメンに近い」と。


 ブタメン。あのなんかすごいちっちゃいカップ麺。駄菓子屋にあるやつ。あれがなんと、本場に近い味だと言う。そのフォロワー氏は福岡ラーメンには一家言ある方なので、きっと信用できる話である。

 ブタメン。そもそもどんな味だったか思い出せない。食べたことはあるはずだった。でも確か、隣で食べていた人のを一口もらったくらいで。自分で買おうと思ったことが一度も無い気がする。

 ブタメン、思わずググってしまった。これがおやつカンンパニーの商品だというのも、味が何種類かあるということも、私はこのとき初めて知った。「ブタメンパラダイス」という特設サイトまである。どうも今年(2023年)、ブタメンは三十周年を迎えるらしい。おお、おめでとうブタメン。あのパッケージでグルグル目になっている豚くんにも、今更名前がついたらしい。「ブタメンくん」、あまりにもそのままでリアクションがとれない。でもこういうのは素直なのが一番だ。よろしく、ブタメンくん。


 つまるところ、私はブタメンが食べたくて仕方がなくなった。

 本日の島根は珍しく快晴。昼間は上着もいらない暖かさ。私はブタメンを求めて、自転車でスーパーへと向かったのだった。

 島根の道は悪路が多い。道は狭く、しかし他に選べる道も無いので、大きなトラックなども通っていく。車道の路面状態は最悪である。地中の配管を工事したような跡もあるのだが、それがまた不格好に膨れていて、余計にガタガタする。そのガタガタしたところが自転車専用レーンになっていたりして、通る度に怒りが湧いてくる。では歩道はどうかというと、これがまたひどい。何をどうしたらこうなるのか、ぐにゃぐにゃと不規則に隆起して、平らな面が異様に少ない。ただ歩くだけでも危険だが、足の悪い人なら尚更である。街灯もほとんどない。そりゃあウォーキングやランニングをする人を見かけないわけである。そして島根には、そういう道を直していくような金も無いのだ。おしまいである。


 閑話休題。

 果たしてスーパーに、ブタメンは並んでいた。赤いパッケージのとんこつ味。改めて見ると、本当に小さい。あまり大きくない私の手にもころんと収まる。少々気恥ずかしい気持ちでレジを通り、ガタガタの道を戻る。帰宅して早速、いそいそと電気ケトルで湯を沸かす。この電気ケトル「わく子さん」についての話は別のエッセイ「我が家のわく子さん(https://kakuyomu.jp/works/16817330651765202437/episodes/16817330651765273439)」に書いているので、よろしければそちらも読んでいただければと思う。

 パッケージを開けると、ぶわっとベビースターラーメンの匂いが広がった。一瞬たじろいだが、まぁおやつカンパニー製だし、と気を取り直して湯を注いだ。この小ささだが、きっかり三分。なんだか味を想像できなくてそわそわしているうちに、タイマーが鳴った。

「よくかきまぜてたべてね!」の表示に従い、箸で麺の上下を返すように混ぜてみる。まだらだった粉末スープと湯が混ざり合い、全体に白く濁っていく。なるほど、豚骨スープらしい色になってきた。

 念入りにふーっと冷まして、一口。

 麺はなんというか、味の薄いチキンラーメンという感じである。いやいや、今回の主目的は、スープ。

 ずず、とスープだけを啜ってみる。思いの外あっさりとしているのに驚いた。豚骨にありがちな臭みも無く、すっきりとした味わい。それでいて旨味やコクは感じられ、塩気も程よい。ほんのりと醤油の風味。なるほど、これが福岡の豚骨スープというものなのか。

 スープは確かに美味しい。が、食べ物としてちょっと物足りない。家にあった白炒りゴマを少しふりかけてみた。これがなかなか良い。ゴマの香ばしさがスープの味をぐっと引き立ててくれる。ちょっとぼんやりした味の麺にも良いアクセントになる。


 ほとんど初めて食べたブタメンは、なかなか興味深い体験だった。この小さなサイズが私にはちょうどよく、適度に冷めやすいし、スープもこれくらいなら飲み干して大丈夫だろうという量である。お酒を飲んだ後、急に食べたくなるラーメンとしても良いかもしれない。

 他の味も食べてみるべきかちょっと悩んできたので、ブタメン有識者がいらっしゃればご意見をうかがいたいところ。

 

 

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