3月27日 のり弁当

 ツイッターのトレンドにベートーヴェンが上がっていて、なんぞ?と思ったら、昨日はベートーヴェンの命日だったらしい。


 ベートーヴェンの交響曲が好きだ。世間的には、交響曲第5番「運命」の冒頭や、年末にやたらと流れる第九のメロディーが有名だろう。

 クラシック音楽の中でも交響曲というと、だいたいが四楽章構成で、全曲通すと短くても15分くらい、長いと一時間くらいにもなるので、食べ物で例えるならフレンチのフルコースくらいのカロリーがある。で、ベートーヴェン先生の交響曲はまた重厚で、味濃いめで、ときどきクドい。だがそこが良い。聴くときはもちろんなのだが、弾いているときの独特の昂りにはたまらないものがある。

 私の趣味の一つが、コントラバスだったりする。コントラバスというのは、ヴァイオリンを人の背よりも大きくしたような形で、オーケストラの端っこから、弦楽器で最も低い音をごうごうと鳴らし、音楽を底から支えるタイプの楽器である。あくまで趣味なので下手の横好きという感じではあるが、なんだかんだでここまで続けてきた。それくらいには、この楽器を愛している。島根ではしばらくおあずけになっているけれども。

 さて、ベートーヴェン先生が曲の中でコントラバスをどう使うかというと、一言で言えば「鬼」である。どの曲も、まぁ難しい。初見ではとても弾けない。必死に練習しても厳しいところさえある。それはベートーヴェンの生きていた時代のウィーンにべらぼうに上手いコントラバス奏者がいて、その人基準で書いたから、などと言われている。勘弁してくれ。しかしそんな譜面でも、弾いていると楽しくなってしまうのだ。別に私がドMという話ではない。いや、コントラバス奏者はベートーヴェン先生の前では皆ドMになってしまうのかもしれない(過言)。

 ベートーヴェンのコントラバス譜は、オイシい。演奏効果がはっきりとわかり、自分の出す音の意図が明確なのだ。間違いなく、必要とされている音。他の楽器ではなく、コントラバスでなくてはならない音。そういう音をオーケストラの中で弾いた時の幸福感は、他では決して味わえないものである。だからはちゃめちゃに難しいことが書かれていても、それに向かう気力がちゃんと湧いてくるのだ。

 他の有名作曲家だと、その辺が微妙な曲も結構ある。アマチュアの分際でこんなことを書くと怒られるかもしれないが、実際気分が上がらないのだから仕方ない。

 この日記で少しでも興味を持っていただけたなら、試しにベートーヴェンの交響曲を一曲、通しで聴いてみてほしい。スピーカーだと聞こえにくい楽器も多いので、できればイヤフォンかヘッドフォンで。わかりやすいのはやはり、第5番だろうか。映画などによく使われるのは6番や7番。個人的には4番も好きだ。


 これほどの曲を書いたベートーヴェンだが、四十歳になる頃にはもうほとんど耳が聞こえなくなっていたという。

 聞こえなくなること。私はそれが恐ろしい。

 久しぶりに持病が悪化して、またそんなことを考えてしまった。今すぐどうにかなるわけではないのだが、発作が起きる度に耳がダメージを受け、低音域が聞こえにくくなっていくと、耳鼻科医には言われている。原因は不明。あるのは対症療法。今日のはたぶん、精神的に色んな負荷が溜まっていたせいだろうとは思う。なんともはや。


 そんなわけで、つらつらとベートーヴェンについて書き連ねる以外には、本当に何もできない日だった。

 夕飯は夫に買ってきてもらった「ほっかほっか亭」の、のり弁当。夫はなんか盛りだくさんのスペシャル弁当。

 正直言って食欲は皆無なのだけれど、いざ食べ始めると意外と腹に入る。し、朝にちょっぴりグラノーラを食べたきりだったので、のり弁当くらいは食べられる気がしたのだ。

 のり弁は、特別美味しいというわけではないけれど、色々とちょうどいい。白米の上にふんわりと花かつお、その上からだし醤油を垂らし、ミシン目が入って食べやすい、しっかりとした厚みの海苔が一枚。そこに載るのはさっくりふっくらな白身魚のフライと、ちくわの磯辺揚げ。それからきんぴらごぼうとしば漬けが少し。以上。

 白身魚にかけるのが別添のマヨしょうゆなのが気に入っている。タルタルソースも選べるが、マヨしょうゆの方がおかか海苔ごはんに合う気がする。そしてちくわの磯辺揚げ。これの味が地味に良い。カラリと揚がったちくわはむっちりと歯ごたえがあって、噛むほどに旨味が広がり、青のりの風味がそれをまた引き立てる。

 このバランスがなんというか、実にちょうどいいのである。


 と思っていたのだが、今日の腹には少し揚げ物が重かったかもしれない。ご飯も小盛りにしたのだけれども。しばらくまた横になっていようと思う。

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